研究課題/領域番号 |
18J20256
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
谷口 百優 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | D-アミノ酸 / 発酵食品 / 成分分析 / 食品機能 / 官能評価 |
研究実績の概要 |
アミノ酸は、アミノ基、カルボキシル基、水素、側鎖が結合する不斉炭素を有し、L-アミノ酸又はD-アミノ酸と呼ばれる鏡像体がある場合がある。自然界では鏡像体の存在比はL-アミノ酸に大きく偏っており、かつてはD-アミノ酸は存在しないと信じられていた。しかしながらD-アミノ酸分析技術の開発によって、D-アミノ酸は植物、高等生物、食品などの様々なところに存在することが明らかとなっている。 発酵食品中には自然界にほとんど存在しないと考えられてきたD-アミノ酸が存在することが明らかになっている。発酵食品中のD-アミノ酸は新規機能性成分として期待されてはいるものの、その存在の有無の確認に留まっており、食品機能についてはほとんど知見が得られていない。 発酵食品中のD-アミノ酸の産生機構としては、1.メイラード反応で生じるアマドリ転移化合物のアミノ酸部位の水素の脱離・再付加と、そのアミノ酸部位の脱離が生じる際にD-アミノ酸が生じる場合と、2.発酵微生物が産生するアミノ酸ラセマーゼによってD-アミノ酸が生じる場合が考えられている。本研究では、発酵食品中のD-アミノ酸の食品機能(特においしさなどに関わる感覚的機能)の解明を目的とし、これまでに開発したキラルアミノ酸分析法によって得たD-アミノ酸プロファイルと、官能評価によって得た種々の呈味の強度との相関を解析する。食品サンプルとして、D-アミノ酸を含むことが知られている清酒を対象とした。昨年度は長期熟成されたメイラード反応が進捗した清酒サンプル、本年度は乳酸菌が酒母製造に関与する生もと酒母を用いて醸造された清酒を使用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標として、D-アミノ酸を含む成分のプロファイルと呈味強度との相関解析を実施することを掲げていた。 本研究では、比較的高濃度にD-アミノ酸を含むことが知られている清酒を対象とした。清酒のD-アミノ酸は、長期熟成された清酒や生もと(伝統的製法で造られた酒母)で仕込まれた清酒で特に高濃度に検出されている。そこで昨年度は熟成された清酒を用いて、D-アミノ酸を含む成分のプロファイルと熟成された清酒に特徴的な呈味との相関の解析を実施した。本年度は生もと仕込み清酒を対象として、D-アミノ酸を含む成分の網羅的プロファイリング,さらには成分プロファイルと呈味強度との相関の解析を実施した。成分を分析する方法として、アミノ酸鏡像体選択的メタボロミクスを提案した。この方法では、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)に基づくメタボロミクス既存法(親水性低分子成分の網羅的解析)と、液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)に基づくアミノ化合物の鏡像体選択的ワイドターゲット解析を組み合わせて用いる。また官能評価では濃淡・後味・旨味・甘味・酸味を対象として生もと仕込み清酒と酵母仕込み清酒(酒母を用いない醸造方法)を比較し旨味が生もと仕込み清酒が優位に強い傾向が見られた。そこで旨味強度と成分プロファイルとの相関の解析を実施したところ、D-アスパラギン酸と旨味強度との高い正相関が示された。 以上のことから、当初の目標がおおむね順調に達成されていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の結果から、日本酒中には多種類のD-アミノ酸が検出されること、さらにいくつかの呈味にD-アミノ酸が高い相関を示すことが分かった 。しかし、食品中のD-アミノ酸と呈味との直接的な関係は解明できていない。食品添加用D-アミノ酸試薬を購入することは現実的に困難であり、D-アミノ酸の官能評価は倫理的ハードルが高い。そこで、高い相関=高確率で呈味に直接関与と言えるように、妥当性が高い呈味予測モデルを構築する必要がある。そこで本年度では、異なる日本酒サンプルや官能評価パネルを用いて新たな回帰モデルを構築し、昨年度と同様の結果 が得られるかどうかを検証する。サンプル数が増加したり官能評価者が変わっても昨年度と同じD-アミノ酸が同じ官能との相関を示せば、堅牢 でオーバーフィットがないモデルを構築できたと考えられ、そこから得られたD-アミノ酸と呈味との関連は実在するものと考えることが出来る。さらに、本年度は第二次食品機能だけでなく、第三次機能とD-アミノ酸との関与の有無についても検証する予定である。第二次機能の研究の場 合にはヒトによる官能評価が必須であり倫理的障壁を超えることが困難であるが、第三次機能の研究の場合はモデル生物を用いることが出来る 。具体的には高濃度D-アミノ酸含有食品を経口投与されたモデル生物のトランスクリプトームやメタボローム解析を行い、表現型にどのような 影響が見られるかを調査する。第三次機能を評価する場合でも、第二次機能を評価する時と同様に多変量解析を使用した相関解析は有効であると考えらる。なぜならDNAマイクロアレイによって得た食品摂取動物の表現型は定量的データであり応答変数として使用可能と考えられるからである。最終的には食品機能成分の候補D-アミノ酸の標品をモデル動物に投与し、D-アミノ酸と食品機能との相関関係の妥当性を検証する予定である。
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