研究課題/領域番号 |
18J20266
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
芳賀 智宏 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 気候変動 / 生物多様性 / シナリオ分析 / 森林管理 / 耕作放棄 / 再生可能エネルギー / ネクサス / LANDIS-II |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、社会・生態システムの不確実性を表す定性的な将来シナリオの定量評価のために、陸域生態系の将来シナリオシミュレーション評価システム(S3-TEC)を高度化することである。1.日本の陸域生態系を構成する多様な土地被覆での植生動態シミュレーションの再現性の向上を図ること、2.将来シナリオで想定される生態系管理のルールを柔軟にモデリングすること、3.マルチベネフィット評価のために評価指標を多様化し、社会・生態システムを俯瞰する包括的な評価を行うこと、の3つの研究課題を設定した。 本年度は、課題1では植生遷移モデリングの再現性向上のため、ササの被陰による木本の更新阻害の改良に取り組んだ。本研究で利用しているForest Landscape Model (FLM) を含む動的植生モデルでは、草本と木本の競争関係を明示的に扱ってこなかった。そこで、代表的FLMのLANDIS-IIモデルにチシマザサによる林床照度減少に伴う定着確率と成長量低下を実装した。北海道渡島檜山森林計画区の国有林で2016年の台風で風倒が発生した林分で2055年までの地上部バイオマスの回復過程を計算し、気候変動下で風倒後のバイオマス回復量を高める森林管理方法を風倒前の森林タイプ別に議論した。 課題2と3では、社会的に木質・太陽光の影響評価が求められている現状を踏まえ、前年度に実施した再生可能エネルギー導入の環境影響予測の高度化を試みた。耕作放棄地に導入する木質バイオマス・太陽光PVシステムの導入比率を31ケース設計し、IPCC RCP2.6および8.5シナリオ下での植生遷移を森林景観モデルLANDIS-IIでシミュレーションした。樹木の多様度と2種の猛禽類の生息適性指数、再生可能エネルギー供給量のネクサス構造を明らかにし、生物多様性保全と再生可能エネルギー生産を両立できるシナリオの条件を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題1に関わる「ササの定着阻害」に関して、査読なし国内学会(日本生態学会第67回大会、日本語ポスター発表)で発表した。また、10th International Association for Landscape Ecology (IALE) World Congressにて、森林景観モデル開発者らと更新阻害プロセスに関して技術会議を行った。課題2および3に関わる「再生可能エネルギー・生物多様性間のネクサス分析」について、アブストラクト査読付き国際会議 (10th IALE World Congress、英語口頭発表)1報で報告するとともに、現在査読付き英文誌で査読を受けている。また、現在までのモデリング手法について、査読なし国内学会 (日本生態学会第67回大会、日本語) にて企画者の一人として自由集会を計画したほか、国立環境研究所福島支部と研究協力し奥会津の森林モデリング研究を補佐するなど、国内研究者間のネットワーク形成に尽力した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度前半には、各課題の成果を統合することで、人口減少や気候変動に伴う定量的シナリオ分析手法の取りまとめを行う。具体的には、課題1で開発した改良型のLANDIS-IIモデルを用いて、人口減少と気候変動に伴う社会・生態システムの生物多様性・生態系サービスのトレードオフ・バンドル分析を実施する。その際課題2と3の成果を活用し、ステークホルダーの関心度の高い複数の生態系サービス・生態系指標への影響評価を試みる。社会システム側の指標として、SDGsを評価できる地域や森林の持続可能性を表す指標の実装や、現在までに開発した生態系サービス変換機能を活用する。生態システム側の指標として、植物相では種多様性指標や種の分布域の経時変化、動物相では生息適性指数を評価する。研究成果は景観モデリングに関連する学術誌にオープンアクセスで投稿するほか、本課題で取り組む分野横断的な定量的・動的シナリオ評価研究の発展に資するため、国内外の関連学会で報告を行う。
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