研究課題/領域番号 |
18J20271
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
片岡 卓也 長岡技術科学大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC1) (40909678)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 水酸アパタイト / クエン酸 / セラノスティクス / クロロフィル / バイオイメージング / ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
特定細胞を安全に可視化するナノ材料開発において,生体親和性に加えて発光強度と水分散性の向上が課題である.我々のグループでは,生体親和性に優れた水酸アパタイト (HA) と有機ユウロピウム (III) 錯体を複合し,無機/有機複合構造に基づくHAの光機能化に成功した.
本年度は,内部・無機相と表面・有機相との相互作用によって発光過程 (励起状態と緩和) を制御できると考え,ユウロピウム (III) イオン含有HAとクエン酸分子の複合粒子を新規に合成し,クエン酸の複合化に伴う粒子の無機/有機界面相互作用による発光特性と水分散性への影響について考察した.ここで,有機相として使用したクエン酸は,がん細胞の増殖を抑制し,正常細胞の増殖には影響を及ぼさない有効性がある.加えて,溶液中において,様々な金属イオンとキレート錯体を形成するため,HAとクエン酸は,HA中のカルシウムイオンとクエン酸のカルボキシル基が相互作用して化学結合する合成法を確立した.そして,HAに含有されたユウロピウム (III) イオンがクエン酸存在下において特異な配位環境であることを見出した.さらに,アパタイト構造におけるユウロピウム (III) イオンとして世界最高の量子収率を示すことを見出した.本材料によって,細胞の診断と増殖抑制の両立を実現しつつある.
現在,マイクロリアクターによる核形成と粒成長過程を分離した新規合成技術によって均一粒子形状をもったHA単相の合成に成功した.さらに,一重項励起酸素生成可能な色素 (クロロフィルなど) を複合化させる技術も確立している.そのため,次年度において,「細胞の診断と治療の両立」を達成できる見込みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
バイオイメージングに用いられているナノ材料において,発光効率の高い材料では毒性のある元素が含まれている問題があった.本年度は,この問題を解決した.具体的に,発光特性を付与するために毒性の低いユウロピウム (III) イオンを水酸アパタイトの結晶構造中に置換したナノ粒子を開発し,この素材へクエン酸を包含させることによって高い発光効率を創出した.これまで報告されているユウロピウム (III) イオンを置換した水酸アパタイトに対して10倍高い内部量子収率を示し,肉眼で視認できるほどの強い発光であった.本ナノ粒子は,生体へ極めて優しい材料のみから構成されたバイオイメージング新素材であり,体内・外で観察する必要のある特定細胞および細胞集合体を高精度に診断するためのバイオイメージング材料としての実用が期待される. 次年度に向けて,「細胞診断・治療」を実現するための材料合成も進めており,マイクロリアクターによる核形成と粒成長過程を分離した新規合成技術により,均一な粒子形状を有する水酸アパタイト単相の合成に成功している.一重項励起酸素生成可能な色素 (クロロフィルなど) を複合化させる技術も確立しているため,当初の目標であった「細胞の診断と治療の両立」を達成できる段階にある.
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今後の研究の推進方策 |
がん細胞のイメージングには成功しているが,細胞中での粒子の挙動の解明のためにはナノサイズ毒性が発現しない粒径での研究が今後の課題である.さらに,クエン酸は,がん細胞の増殖を抑制する効果を伴うため,本年度開発した粒子が,がん細胞イメージングと同時にがん細胞の増殖抑制効果が発現することを評価する予定である. 最終的に,がん細胞の診断と治療を両立するセラノスティクスナノ粒子として実用することを目指しており,バイオ・医療分野における発光ナノ素材として幅広い活用が期待される新素材開発を推進予定である.具体的に,マイクロリアクターによる核形成と粒成長過程を分離した新規合成技術により,均一な粒子形状を有する水酸アパタイト単相の合成に成功している.さらに,一重項励起酸素生成可能な色素 (クロロフィルなど) を複合化させる技術も確立しているため,当初の目標「細胞の診断と治療の両立」を達成する新素材の開発も鋭意推進する.
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