特定細胞を安全に可視化する材料開発において,生体親和性に加えて発光強度と水分散性の向上が課題である.昨年度は,内部・無機相と表面・有機相との相互作用によって発光過程 (励起状態と緩和) を制御できると考え,Eu (III) イオンを含有した水酸アパタイト (HA) とクエン酸分子の複合粒子を合成し,クエン酸の複合化に伴う粒子の無機/有機界面相互作用による発光特性と水分散性への影響について研究した.有機相として使用したクエン酸はがん細胞のみを選択的に増殖抑制し,正常細胞には影響がない.蛍光プローブとして,HAに含有させたEu (III) イオンがクエン酸存在下においてどのような物性を示すかを観測した.本年度は,本複合粒子を細胞培養時に添加しがん細胞への影響を詳細に評価した.さらに,「細胞診断・治療」を実現するための材料設計に取り組んだ. 本複合粒子を細胞培養時に添加しがん細胞への影響を評価した結果,複合粒子は細胞と反応して,細胞からの赤色発光を示しながら細胞の増殖を抑制し,細胞標識と細胞増殖抑制の二機能を示した.複合したクエン酸分子は,がん細胞の成長抑制に大きく寄与する可能性が示唆された. 上記に加え,本年度は「細胞診断・治療」を実現するための材料設計に関して研究を行った.マイクロリアクターによる核形成と粒成長過程を分離した合成技術により,HA単結晶の合成に成功したことから,一重項酸素生成可能な色素 (メチレンブルー) を合成技術に組み込むことで,「細胞診断・治療」の両立を達成する可能性が示された.合成時の仕込みCa/P比を0.5で固定した場合,メチレンブルーのカチオンサイトとHAのリン酸サイトが効率的に相互作用し,高い一重項酸素生成能を実現した.がん細胞と効果的に粒子は反応し,低出力のレーザー光照射によって一重項酸素を発生させ、がん細胞の死滅が確認された。
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