研究課題/領域番号 |
18J20276
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
雛本 樹生 神戸大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | アップコンバージョン / ナノフォトニクス / プラズモニクス |
研究実績の概要 |
ナノフォトニクスの観点から、可視紫外アップコンバージョン材料の変換効率の向上を狙うため、本年度は主に光ナノアンテナの開発に取り組み、以下の成果を得た。 1)アルミニウムナノアンテナの設計:FDTDシミュレーションを用いて、アルミニウムナノアンテナの構造設計を行った。ナノスフィアリソグラフィで形成可能ないくつかの構造について、表面プラズモン共鳴特性の詳細な解析を行い、深紫外光領域での量子効率増大や、励起電場増強が得られる構造パラメーターを決定した。 2)指向性ナノアンテナの開発:1のナノアンテナにより増強された発光に指向性を持たせることで、更なる高性能化が見込まれる。高い指向性を示す光ナノアンテナを開発するため、Stanford大学に8か月間滞在し、共同研究を行った。Technical University of Denmarkの研究者とともに理論解析を行い、高屈折率誘電体ナノ粒子がMie共鳴モードと発光体自身の放射パターンの干渉により、強い指向性を示すことを明らかにした。顕微分光法を用いた実証実験を行い、ナノアンテナを発光体と組み合わせることで、発光に数倍の指向性を付与することに成功した。 3)金属・アップコンバージョン複合ナノ粒子のための金属ナノアンテナ構造開発:今後、金属・アップコンバージョン複合材料の応用の自由度を上げるため、単一粒子で機能する複合ナノ粒子へと展開することを計画している。そのためのナノアンテナ構造として、スペーサーを介して金属ナノ粒子と金属ナノキャップを組み合わせた構造に着目した。境界要素法によるシミュレーションを行い、本構造は表面プラズモン共鳴の強い相互作用に由来する、高い共鳴波長制御性と強い電場増強効果を有することを明らかにした。これらの特性はアップコンバージョン増強に有用であるため、実際に本構造でのアップコンバージョン測定を行い、強い発光増強を観測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、研究の初年度であり、測定に必要な装置の構築や、ベースとなるアップコンバージョン材料の合成方法を確立することから開始した。続いて、当初の計画通りアルミニウムナノアンテナの開発へと移行し、順調にシミュレーションによる構造設計を完了した。 また、当初の予定にはなかったが、Stanford大学との共同研究の過程で、高屈折率誘電体ナノ粒子によって発光の指向性を制御できることを発見した。現在はシンプルな構造での原理実証段階であるが、今後上記のアルミニウムナノアンテナと組み合わせることで、更なる高性能化が期待される。 更に、金属・アップコンバージョン複合ナノ粒子構造の開発については、シミュレーションで良好な結果が得られたため、計画を繰り上げて実施している。金属ナノキャップとナノ粒子からなる光ナノアンテナを組み込んだアップコンバージョンナノ粒子を実際に作製し、計算と実験の両面から、その優れた性能を実証した。これらの成果は、国際会議での口頭発表や英文論文誌に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの結果を踏まえ、今後は以下の研究を実施する。 1)設計したアルミニウムナノアンテナを実際に作製し、吸収スペクトル測定によりその光学特性を評価する。アップコンバージョンスペクトルと吸収スペクトルの関係を調べ、増強度を最大化するためのパラメーターとそのメカニズムを明らかにする。これらの知見を試料の作製プロセスにフィードバックすることで、アップコンバージョン増強の最大化を目指す。 2)指向性ナノアンテナの性能向上に関する研究を行う。発光体と高屈折率誘電体ナノ粒子の系における理論解析結果から、発光体とナノアンテナの距離等のパラメーターが、指向性に強い影響を与えることが示唆されている。Stanford大と共同で、これらのパラメーターと指向性の関係を、計算及び実験の両面から明らかにする。 3)より複雑な金属・アップコンバージョンナノ粒子の開発を行う。本年度の研究では、球形のアップコンバージョンナノ粒子を用いたが、これをロッド型や立方体とすることで、より複雑な金属ナノ構造との複合体を形成することができる。これにより増加した構造の自由度を利用し、より高機能な複合ナノ粒子を開発する。
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