研究課題
研究課題「腫瘍免疫機構解析によるTNBCの予後および治療効果予測方法の確立」については、エフェクターT細胞の活性化に関与する転写因子T-betに着目し、その機能的意義を検討した。2005年~2014年までに手術をした原発性乳癌のうち、術前化学療法症例を除くTNBC248例を対象とし、免疫組織化学染色によりT-betおよびCD8発現を評価し、既存の治療(化学療法)・予後データを用いて解析した。TNBCの微小環境において、T細胞の転写因子T-bet発現とCD8発現には正の相関があった。TNBCにおいてT-bet発現が高く、転写活性の高いリンパ球が多い腫瘍は、腫瘍径が小さく、予後良好の可能性があった。腫瘍免疫活性化の機能的指標としてT-bet発現が有用である可能性が示唆された。この研究成果を令和元年8月のBreast Cancer Research and Treatment誌、第176巻・第3号に公表した。本年度は、アメリカ合衆国カルフォルニア州にあるBeckman Research Institute of City of Hope, Cancer Biology分野のShiuan Chen教授の研究室で研究を継続している。テーマは、昨年度、研究計画を追加したホルモン療法耐性乳癌に対するエストロゲン療法に関する研究である。ヒトの再発乳癌腫瘍(Luminal Bタイプ)からE2投与の治療効果がみられるホルモン療法耐性Patient-derived xenograft (PDX)モデルを確立し、個々の細胞の遺伝子変化を捉えるシングルセルRNAシークエンスを行った。これまでの成果は、令和元年12月の第42回 San Antonio Breast Cancer Symposiumで発表した。
2: おおむね順調に進展している
博士課程3年目となった本年度は、研究成果を権威学術誌Breast Cancer Research and Treatment誌、第176巻・第3号(令和元年8月)に公表した。大学院3年目に主論文発表ができ、昨年度副論文を2編公表していたため、学位取得に至り、3年で大学院を早期終了した。当初計画していた研究は順調に進んだと自負している。また、渡航先の研究室では、中国、台湾、韓国、日本などアジア各国から集まった研究者達と協力してプロジェクトを進めている。渡航先で新たに研究計画へ追加した「ホルモン療法耐性乳癌に対するエストロゲン療法」に関しては、世界で最も大きな乳癌学会のひとつである第42回 San Antonio Breast Cancer Symposiumで発表した。乳癌のシングルセル解析を用いた研究結果に対し、世界各国から集まった研究者からの質問も多く、積極的に意見を交わした。この研究成果は、来年度に論文発表予定である。
まず、ヒトの再発乳癌腫瘍(Luminal Bタイプ)からE2投与の治療効果がみられるホルモン療法耐性Patient-derived xenograft (PDX)モデルを確立した。このPDXモデルに対しE2(1mg)とプラセボペレットを移植し、治療1週間後の腫瘍を回収した。腫瘍組織から各々約5000個の単一細胞を分離し、個々の細胞の遺伝子変化を捉えるシングルセルRNAシークエンスを行った。E2治療後の細胞は、プラセボと比較し、G1期に留まっている細胞の割合が多く、G2M期の細胞が少なかった。さらにESR1発現がある細胞とない細胞に分けて解析を行うことで、それぞれG1期に留まっている細胞の割合が異なること、E2治療より下方制御される経路が異なること、ESR1発現がある細胞・ない細胞間でのクロストークがあることなど、組織レベルでのRNAシークエンスでは得られない新たな情報を得ることができた。またタンパクレベルの検討では、1週間のE2治療後にエストロゲン受容体の減少、プロゲステロン受容体の増加、Ki-67やCEAの減少を認め、4週間の長期E2治療では、Cleaved PARPの検出、アポトーシス細胞の増加を認めた。In vitroでは、腫瘍から作成したオルガノイドに対する薬剤試験を行い、濃度依存性にE2の効果を認めた。E2による治療効果は、ERβ拮抗薬で阻害されず、ERα拮抗薬で阻害された。Luminal 乳癌は、本来E2投与により腫瘍の成長が促進される。当研究室では、ヒトの再発乳癌腫瘍(Luminal Bタイプ)よりE2投与により腫瘍増殖が加速されるPDXモデルも確立した。今後はE2抑制モデルとE2促進モデルを比較するシングルセル解析を計画している。その結果を踏まえ、来年度に論文発表予定である。
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