研究課題/領域番号 |
18J20316
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
原 朱音 九州大学, システム生命科学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 数理生物学 / アレルギー / 腸内細菌叢 / 免疫系 / T細胞 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、腸内細菌叢と免疫系との相互作用に着目し、腸内細菌叢に介入を加えることによる新たなアレルギー治療法の発見を目標としている。しかし相互作用の詳細なメカニズムは不明であるため、本研究課題ではまずその基本原理を調べ、そして得られた知見をもとに腸内細菌叢への介入方法を定量的に提言する。 本研究課題では数理モデル解析・公共データを用いた腸内細菌叢メタゲノムデータ解析を並行して、腸内細菌叢と免疫系との相互作用を解明する。まずは数理モデルを用いて、腸内細菌叢と免疫系との間にある動的な相互作用の様子を再現する。2018年度には、免疫反応を引き起こすヘルパーT細胞と、免疫反応を抑制するはたらきを持つ制御性T細胞、そして制御性T細胞を誘導する腸内細菌の3要素からなる数理モデルを構築した。この数理モデルにより、腸内細菌が死滅しかつアレルギーのリスクが高くなる状態・腸内細菌が生存しかつアレルギーのリスクが低くなる状態の対照的な2状態を再現できた。そこで、治療目標の一つとして、アレルギー低リスクの状態を実現するための条件式を導いた。さらにもう一つの治療目標として、アレルギー低リスクの状態内においても、腸内細菌の持ついくつかの性質に介入を加えることで、より発症リスクを低くできることを確かめた。本解析の結果は、国際誌であるJournal of Theoretical Biologyに掲載された。 並行して、腸内細菌叢公共メタゲノムデータを用いた解析に取り組んでいる。アレルギー未発症の状態から発症した状態までの、腸内細菌叢の遷移過程を擬似的に構成し、推定する手法を探索している。 上記の当初の計画に沿った研究に加えて、時間生物学の観点からも情報収集を開始した。概日リズムという観点を加えることで、効率的な腸内細菌叢への介入時間帯を議論でき、より具体的な治療案の開発が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
数理モデル解析については、免疫系と腸内細菌叢との関係を表す単純な数理モデルを構築・解析し、取りまとめて国際・国内学会にて発表し、国際誌に掲載された。メタゲノムデータ解析についても、引き続き疑似的に腸内細菌叢構成の遷移過程を推定する方法を探索しており、当初の予定どおりに進んでいるといえる。 上記のような当初期待していた進捗に加えて、概日リズムが疾患や治療に及ぼす影響を考慮する必要性に気づき、時間生物学的観点からも情報収集を開始した。まずはグルコース代謝の概日リズム研究を題材に数理モデル研究を始め、国内で行われた国際シンポジウムにて発表を行った。将来、腸内細菌叢への介入時間帯の議論をするために必要な、数理モデリング技術の習得を始めた。以上のことから、本研究課題に当初想定した以上の広がりがあったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
数理モデル研究については、今年度構築した単純なモデルをもとに、複数の腸内細菌種が存在することを考慮し、メタゲノムデータでみられる腸内細菌叢構成の時間変化を議論できる形に拡張する。メタゲノムデータ解析については、引き続き腸内細菌叢データの特徴に合った方法を探索していく。これらの数理モデルとデータ解析それぞれの方法で得られる知見を、互いの解析に生かしていく予定である。 採用当初の計画に加えて、概日リズムが免疫系や腸内細菌叢さらにはヒトの疾患に与える影響についても情報収集を行う。同時にグルコース代謝と概日リズムとの関係についての数理モデル研究を並行し、数理モデルで概日リズムを扱う技術を習得する。
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