本研究は、中国東北部からユーラシア大陸極東における持続可能な森林管理を見据えて、土壌塩類化等の環境劣化が、人工林に広く利用されているカラマツ属苗木に及ぼす影響を生理生態学的な視点から評価し、変動環境下における適地適木と育林基盤の構築を目指した。主な研究対象としてグイマツ、カラマツ、また育種開発されたグイマツ雑種F1の苗木を用い、個体レベルから個葉・個根レベルにおける耐塩性を種間比較法で評価した。個葉レベルでは光合成活性と、葉内のナトリウムやカリウムなどのカチオン濃度との関係に着目した。塩ストレスによる葉のナトリウム濃度の増加に伴った光合成速度等の生理活性の阻害度合いを従来の耐塩性指標とした上で、さらに本研究では葉のナトリウム濃度の増加に伴う、カリウム等の濃度の低下程度をカチオンの恒常性の指標として種ごとに算出し、耐塩性に関連する個葉レベルの新指標とした。従来の耐塩性指標と新指標との関係を種間比較法で評価した結果、塩ストレス下におけるカラマツ属における個葉生理活性は、葉のイオンバランスが維持されているほど高いことが示された。さらに本研究では、地上部の形質に加えて、地下部、根系の塩ストレス応答を、カラマツ属の根系成長が最も活発な時期において評価した。個根レベルでは主根と、一次成長根と二次成長根の側根の構造別で評価したところ、構造別の根系には形態特性の明瞭な変化が見られなかった。一方で、主根と側根、一次成長根と二次成長根間の形態特性の比率は、個体の耐塩性が低いほど塩ストレスで低下しており、カラマツ属における根系全体における形態的バランス維持が耐塩性に関連する可能性がある。これらの結果から、カラマツ属の地上部や地下部の形質は個体レベルの耐塩性を関連することが示唆されたが、本試験の結果は3種に限られており、提案した新しい耐塩性指標の一般性は更に検証する必要があると考えられた。
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