研究課題/領域番号 |
18J20331
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
徳永 有希 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | セルラーゼ / リグニン / 糖質結合モジュール / NMR / 相互作用解析 / 化学シフト摂動法 |
研究実績の概要 |
リグノセルロース資源から化成品や燃料を持続的に生産するうえで、酵素糖化は極めて重要な変換プロセスである。しかしセルラーゼ等の多糖分解酵素がリグニンに非生産的に吸着し効率を下げることが課題となっており、セルラーゼとリグニン間の吸着メカニズムは詳細には明らかにされていない。セルラーゼの非生産的な吸着には糖質結合モジュール(CBM)が大きく影響することが知られているため、本研究では糸状菌Trichoderma reesei由来セロビオヒドロラーゼI(Cel7A)の有するCBM1に着目し、リグニンとTrCBM1間の相互作用を高分解能NMRを用いて明かにすることを目指す。 今年度はβ-O-4結合型リグニンオリゴマーモデルを合成し、NMR化学シフト摂動法を用いてTrCBM1の吸着する部位を原子レベルで明かにした。リグニンオリゴマーモデルの帰属は1D 1H、13C NMR および2D 1H-13C HSQC、HMBC、LR-HSQMBCにより行い、リグニンオリゴマーモデルを構成するすべてのCおよび非交換性Hについて帰属を行った。リグニンオリゴマーモデルの高次構造は1H-1H ROESYを用いて解析し、リグニンオリゴマーモデルがDMSO-d6 またはDMSO-d6/酢酸バッファー(重水)(pD 5.0) 混合液 (1:9, v/v)のどちらに溶解している場合であっても丸まった高次構造を有していることが示された。またリグニンオリゴマーモデルが末端の異なる2種類のコンフォメーションを有していることが示され、TrCBM1に対する吸着パターンがリグニンオリゴマーモデルのコンフォメーションによって異なることを見出した。以上のリグニンオリゴマーモデルの詳細なNMR解析を通じて、TrCBM1との相互作用解析を原子レベルで遂行することが可能になり、TrCBM1のリグニンへの非生産的な吸着のメカニズムを精確に解明することが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書において(課題1)TrCBM1のリグニンとの相互作用部位を詳細に明らかにすること、(課題2)二次元NMRによりリグニン側の相互作用部位を明らかにすることを挙げている。今年度までに安定同位体標識したTrCBM1を用いてTrCBM1内のリグニンとの相互作用部位をアミノ酸残基レベルで解析するとともに、安定同位体標識したβ-O-4型リグニンオリゴマーモデルを用いてリグニンのTrCBM1に対する相互作用部位を原子レベルで解析している。特にリグニンモデル内の吸着部位に関しては、リグニンオリゴマーモデルの高次構造や分子量とも関連させたうえでTrCBM1の吸着パターンを精確に解析することができている。令和1年度に得られた研究結果は現在2本の論文としてまとめ、投稿中である。以上のようにリグニンとCBMの両側から詳細に相互作用部位を解析する試みは新規であり、当初掲げた課題を満足していることから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画調書において本年度は(課題3) TrCBM1と多種類サンプルの網羅的な解析により、多様なリグニン試料に適用できる普遍的相互作用メカニズムの提唱に取り組む旨を記載している。昨年度はβ-O-4結合型リグニンオリゴマーモデルを使用したが、リグニンはβ-O-4結合以外にも多様な単位間結合を有しており、それらがTrCBM1やセルラーゼへの吸着に与える影響は全く明らかにされていない。本年度は人工的に合成可能なdehydrogenase polymer(DHP)をリグニンのモデルとして使用し、リグニンの持つ多様な単位間結合がTrCBM1への吸着に与える影響を解析する。具体的な手法としては、これまでと同様に安定同位体標識したTrCBM1の結合部位をNMR化学シフト摂動法で解析することを想定している。
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