研究課題/領域番号 |
18J20339
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菅野 蓮華 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 落石対策工 / 数値シミュレーション / 最適化問題 / リスク評価 / 道路防災 |
研究実績の概要 |
2018年度の研究成果である「交通路線における落石リスク評価および対策工の設計最適化のための枠組み」を国内外の学会で発表し,提案手法の社会実装に向けた様々な問題提起がなされた.例を挙げると,広域的な落石発生源調査の効率化,道路構造物の物理的損傷だけでなく道路交通状況を考慮した経済的リスクの評価などである.これらの課題に対し,現在検討を重ねている段階である.
より局所的な単一斜面スケールにおける数値シミュレーションに基づいた落石対策工の最適化手法について,研究内容のブラッシュアップを図った.第一に,落石対策工の設計パラメータとして高さ(z軸)方向の検討を加えた.第二に,想定する対策工の種類を具体化し,今回は落石防護土堤の設計を対象とした上で,より詳細で現実的な安全性評価プロセスを先行研究に倣い定義した.第三に,数値シミュレーションの試行回数を増加させることによる最適解の収束性を確認し,設計最適化のために実行する解析コストの大きさと得られる解の信頼性の関係を考察した.以上のブラッシュアップにより,提案手法が落石ハザードを適切に評価し防護土堤の設計に定量的指針を与えられることを裏付けた.
2つの空間スケール(交通路線全体・単一斜面)を一貫した思想のもとマネジメントできる落石対策スキームを構築する上で,異なる物理モデルの数値シミュレーション手法を合理的に使い分ける必要がある.そこで,質点系と非質点系(DEM)の両方を用いて同一斜面上の落石シミュレーションを実行し,物理モデルの違いがシミュレーションに及ぼす影響を調べた.その結果,落下軌道が岩塊形状の表現精度に大きく依存することが明らかになった.また,一般にDEMシミュレーションは質点系シミュレーションより高精度とされるが,信頼性の高い解析結果を得るためには岩塊形状のモデリングを十分吟味する必要があることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究が提案する落石対策手法は,従来行われてきた対症療法的な防災事業を脱却するための独創的かつ実験的アプローチを採っており,それゆえ将来的な社会実装の実現性および学術的意義付けに関して議論の余地が多く残されていた.本年度の取り組みを通して研究内容は工学的・学術的観点から考察を深め,落石災害の予測およびリスクマネジメントにおける数値シミュレーションの信頼性に定量的評価を与えることができた.さらに本年度は,国内外の多くの学術講演会に参加し,研究者とのディスカッションを重ねながら研究内容のブラッシュアップにも注力した.特に,専門の異なる研究者との交流を通して,数理最適化の理論の理解を深められた.
以上のように2019年度の研究成果は主にこれまでの提案手法の裏付けについては一定の成果を得たものの,最終到達目標である「異なる規模の空間スケールで一貫した基準に基づく落石対策計画の最適化」に向けた進捗は,当初の計画と比べてやや遅れている.今後の具体的な研究方針について現在検討を重ねており,採用期間内の目標達成は十分に見込める.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2019年度は,2つの空間スケール(交通路線全体・単一斜面)を一貫した思想のもとマネジメントできる落石対策スキームの理論的構築,および実際の落石リスクが高いとされる道路区間を対象とした提案手法の適用を行う予定である.落石対策スキームの具体的構想として,はじめに質点系シミュレーションに基づき道路全体の落石ハザード分布を評価し,対策優先度および対策予算配分の最適解を求める.次に優先度の高い斜面を抽出して,DEMシミュレーションを用い岩塊の運動エネルギーの空間分布まで予測した上で,具体的な落石対策工の設計条件の最適化を図る.さらに,局所的な最適化結果を道路全体のリスク評価にフィードバックし,広域→局所→広域の最適化を循環させることで,リスクが高い区間から対策方針を定めて逐次改善し,合理的かつ効率的に道路全体の落石リスクを低減できると考えられる.対象とする道路の数値標高モデルや道路防災点検記録,既設対策工の情報等は既に収集しており,それらの情報を利用して提案手法の適用結果が適切であるか評価する.なお,研究計画策定当初に地域の交通ネットワーク全体を空間スケールの最上位として対策枠組みに取り入れる予定であったが,分析に十分なデータを収集することが困難となったため,計画を変更し本研究で扱う空間スケールを2つに絞った.最終的には,交通路線上の落石リスクの空間分布や,最適化結果に基づく対策工の設計イメージ等を視覚的に重ね合わせ,複数の空間スケールを跨ぐ対策計画の包括的ビジュアライゼーションを目指す.
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