本研究の最終目的は,2つの空間スケール(交通路線全体・単一斜面)を一貫した思想のもとマネジメントできる落石対策スキームの理論的構築,および実際の落石リスクが高いとされる道路区間を対象とした提案手法の適用である.本年度においては,前年度までの研究成果である「交通路線における落石リスク評価および対策工の設計最適化手法」を基に,危険度が特に高い地点のリスク評価精度を高精細シミュレーションモデルの部分的導入によって向上させながら,道路全体の最適解を修正して対策工の費用便益比を改善するスケール間連続最適化の枠組みを構築した.本研究成果により,防災工学分野において計算科学および数理学的な観点に基づいた有用な知見を提案した上で,落石災害対策をより高度化するリスクマネジメント手法の発展に寄与するものと考えられる.
また,目的を達成する上で創出された各成果を以下に記す.第一に,使用する解析モデルの選択が落石の数値シミュレーションに及ぼす影響を評価し,解析規模や目的に応じて適切なモデリングを行うことの重要性を示した.可視化ソフトウェアを活用して本成果を発表した計算工学講演会ではグラフィクスアワード最優秀賞を受賞した.第二に,交通路線全体を対象とした対策工配置の最適化問題をブラッシュアップし,対策予算および交通量の変化に応じて解が導出されることを確認した.実際の道路を対象に,現地の既設対策工や交通量などの情報を反映させて提案手法を適用し,最適解を示すことができた.第三に,単一斜面における対策工の設計最適化手法について,信頼性の高い解を得るため必要十分なシミュレーション回数について議論を深めた.シミュレーション回数を減らすことで落石軌道の斜面水平方向の分散が過小評価されるため,対策工長さの設計に注意する必要性が示された.本成果は国際ジャーナルEngineering Geologyに掲載された.
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