昨年度までに開発した、濃厚エマルションを利用した多孔質高分子ゲルの作製方法をさらに発展させ、様々な物理化学的物性をもつポリスチレン-ホスフィン複合ゲルを作製した。高活性なモノ配位パラジウムーホスフィン錯体を安定に形成する高分子組成を種々に調査した。固体核磁気共鳴分光法を利用した解析により、ゲルの架橋度がモノ配位挙動に与える影響を詳細に明らかにした。さらに、このパラジウム固定化多孔質ゲルをフロー操作に応用したところ、いずれも低圧で高速に液を流通できることが明らかとなった。トレーサー分子を利用した滞留時間分布解析の結果、いずれのカラムも理想的な押し出し流れに近い流れを提供していることが分かった。これらは効率的なフロー合成への展開を可能にし、実際、炭素-塩素結合の変換を含むSuzuki-MiyauraクロスカップリングおよびBuchwald-Hartwigアミノ化など、従来困難とされていた有用な遷移金属触媒反応を円滑に進行した。 高分子組成の最適化されたポリスチレン-ホスフィン複合ゲルについて、異なる重合系で作製したゲル粒子あるいは多孔質ゲルを用い、カラムへ充填しフロー反応へ応用した。ゲル粒子充填カラムにおいて、粒子径の減少は狭い滞留時間分布および高い触媒効率をもたらした一方で、非常に低い透過性能が観察され、実用化に適さないカラムリアクターであることが分かった。一方で、多孔質ゲルにおいては高い空隙率および流路サイズの制御された材料特性に由来して、高い触媒効率と透過性能が両立された。また、従来はトレードオフの関係にあった触媒の充填率および空隙率は、ゲルの内部まで有効に使用できるこの系においては、触媒密度を大幅に向上できることも推算された。
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