研究課題/領域番号 |
18J20370
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
坂本(渋谷) 幸子 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 嫌気性共生微生物 / メトキシ芳香族化合物 / 深部地下油ガス田環境 / ゲノム解析 / 分離培養 |
研究実績の概要 |
本研究は深部地下環境においてメトキシ芳香族化合物(MAC)の動態に関与する中核的な未知微生物を探索し、その生理生態機能の解明を目的としている。MACを分解する未知微生物を標的として、深部地下油ガス田環境から採取した試料を植種源、MACを基質として集積培養及び分離培養を行ったところ、新規分離株の取得に成功した。この新規分離株は16S rRNA遺伝子に基づいた系統解析により、科レベル以上で新規のBacteriaであり系統的に新規性が高く、またMACを分解していることが予想されることから生理機能の解析を行なった。まず初めに新規分離株の全ゲノムを決定し、ゲノム情報から予め新規分離株がどのような細菌であるか予測を試みた。MACからメチル基を脱メチル化する際に用いられる酵素は二つのメチルトランスフェラーゼ(MTⅠ、MTⅡ)を含む複数の酵素で構成されることが知られており、新規分離株はMTⅠ以外の全ての酵素を有していた。MTⅠは基質特異性が報告されており、これらの結果から、新規分離株はMACからメチル基を脱メチル化する機能を有し、既知のMTⅠでは網羅されていないMACを基質として用いる可能性があると予想した。 培養実験結果、新規分離株は糖類や有機酸を基質として利用可能であったが、一方で単一でMACを利用しなかった。そこで、集積培養系にメタン生成菌が生息していたことを鑑み、新規分離株はMACを共生して分解する共生微生物であると予測しメタン菌との共生培養系を試みた。MACを基質に用い新規分離株とメタン生成菌の共生培養を実施した結果、二種類の細菌の増殖及びメタンの生成を確認した。以上の結果より、新規分離株はメタン生成菌と共生関係を築いてMACを分解する共生微生物であると考えられる。MACを共生して分解する共生微生物はこれまでに報告されておらず、共生微生物によるMAC分解機構の解明を今後行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は新規分離株とメタン菌の共生培養系を立ち上げることができた。当初は共生培養系の立ち上げに時間がかかると予想していたが、ゲノム情報から共生培養のパートナーとなるメタン生成菌の選定を行うなど、事前に培養条件を検討した結果、培養一回目で立ち上げることに成功した。また、当初用いた還元剤では培地に還元剤由来の金属化合物が析出し、(1)増殖を定量的に評価する場合、濁度で評価することができず代謝産物で評価を行わなければならないため時間がかかる、(2)トランスクリプトーム解析を行う際のRNA抽出時に抽出効率が低下するという問題があったが、新規分離株が増殖可能な代替の還元剤を見つけることができ、トランスクリプトーム解析をはじめとする次年度に実施する実験を円滑に実施できる状態となった。
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今後の研究の推進方策 |
共生微生物によるMAC分解機構を解明するため新規分離株の培養実験及びゲノム解析を引き続き実施する。新規分離株が有するタンパク質の一つをMTと予想しており、このタンパク質をMTと同定するためトランスクリプトーム解析を実施し、MAC分解時の遺伝子発現を評価しMTの同定を試みる。また新規分離株は単独時にはMACを分解せず、メタン菌との共生培養時のみMACを分解するという特徴がある。この理由について熱力学的観点から考察を行い明らかにする。 これまでに嫌気環境でMACを分解する微生物は酢酸生成菌、メタン生成菌及び本研究で明らかとした共生微生物の3種類が知られているが、深部地下油ガス田環境中でどの微生物がどの遺伝子を用いてMACを分解しているかなど実態は不明である。そこで、環境ゲノム解析を実施し、深部地下油ガス田環境中におけるMACに関与する微生物の多様性及びMTの分布の評価を実施する。また、深部地下油ガス田環境中には新規分離株のようなMAC分解を行う未培養微生物が他にも存在していると予想している。そこで、深部地下油ガス田環境サンプルを用い、次世代シーケンサーを用いたメタゲノムのショットガンシーケンスを行い、未培養微生物の全ゲノムを構築し、未培養微生物の全ゲノム情報から脱メチル化する際に用いられる酵素を有する未知微生物がいるかを探り、同ゲノム上の16S rRNA遺伝子から系統情報を詳らかにする。
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