研究課題/領域番号 |
18J20377
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
堀 将太 北海道大学, 農学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 12α水酸化胆汁酸 / 鉄 / 脂肪肝 |
研究実績の概要 |
ミネラルの恒常性維持は生体の正常な機能を保つ上で極めて重要である。しかしながら、ミネラル代謝を調節する宿主因子はあまり知られていない。先行研究において、高脂肪食摂取で増加する12α水酸化胆汁酸(12OH)の影響を調べるために、その一次胆汁酸であるコール酸をラットに与えたところ、肝臓鉄濃度を強力に低下させる事を見出した。このとき、コール酸を与えたラットは肝臓鉄濃度と逆相関して脂肪肝を発症しており、軽度の鉄欠乏食を与えたラットにおいて高ショ糖食による肝臓脂肪濃度上昇効果が増強されることも明らかとした。これらの事から、12OHによる肝臓鉄濃度低下の機構を明らかにすることが重要な課題となっていた。コール酸を与えたラットでは、コール酸の腸内細菌代謝物であるデオキシコール酸が著増していたため、デオキシコール酸の影響について調べた。まず、ラットに抗生物質バンコマイシンを飲水投与し、コール酸を与えても糞便中のデオキシコール酸は検出限界以下に低下する事を確認した。このとき、デオキシコール酸が生成しない状態でも肝臓鉄濃度低下が低下した。すなわち、特に一次の12OHが肝臓鉄濃度低下に重要である事が示された。また、12OHによる肝臓鉄濃度低下作用は、鉄の摂取量、糞便への鉄排泄量、肝臓鉄代謝の遺伝子発現の変化では全く説明できない機構であることもわかった。ヒト臨床試験において、特に肥満患者において鉄欠乏発症リスクが高く、鉄摂取量や鉄の吸収量では説明がつかないケースも報告されている。肥満ヒトにおいて12OHが血中で増加する報告(Haeusler R et al, J Clin Endocinol Metab, 2016)もあることから、こうしたケースにおいて12OHが鉄欠乏状態の発症に少なくとも一部寄与している可能性がある。現在は、こうした12OHが高脂肪食摂取で増加する機構の解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
摂取エネルギー過剰や加齢により増大する12α水酸化胆汁酸は、腸内細菌による7α脱水酸化を受ける事でデオキシコール酸が生じる。当初の仮説としては、このデオキシコール酸が脂肪肝を含む多様な初期疾患症状を引き起こす可能性を想定していた。このことを明らかにするために、7α脱水酸化を引き起こす腸内細菌を消失させるためにバンコマイシンを用いた実験を実施したところ、12α水酸化胆汁酸による初期疾患のうち肝脂質蓄積に関してはデオキシコール酸への変換が不要であること、すなわち12α水酸化胆汁酸の中でも一次胆汁酸であるコール酸やタウロコール酸が肝脂質蓄積に重要であることを見出した。そもそも12α水酸化胆汁酸が肝脂質誘導を惹起することが新しい知見であることに加え、その肝脂質蓄積誘導が一次胆汁酸を原因とするという報告はない。また、12α水酸化胆汁酸による肝臓鉄濃度の減少はバンコマイシン投与による影響を受けないことが示された。これらのことは、12α水酸化胆汁酸誘導性の肝脂質蓄積における鉄の重要性を示すとともに、生活習慣病予防戦略の策定に少なからず寄与すると推察される。現状では、得られた成果をもとにその機構解明に向けた取り組みを実施しており、今後の成果が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに(1)高脂肪食摂取で12α水酸化胆汁酸が特異的に増加すること(2)一次の12α水酸化胆汁酸であっるコール酸をラットに与えると肝臓鉄濃度低下に伴って脂肪肝を発症すること(3)バンコマイシン投与で腸内細菌によるコール酸からのデオキシコール酸産生を抑制しても肝臓鉄濃度低下及び脂肪肝発症は抑制されないこと(4)軽度の鉄欠乏食を与えて肝臓鉄濃度を低下させると、スクロースによる肝臓脂質蓄積が増強されることを明らかとしてきた。これらの結果から、肝臓鉄濃度低下および脂肪肝発症における12α水酸化胆汁酸の重要性が示されてきた。しかしながら、そもそも高脂肪食により12α水酸化胆汁酸が増加する機構は明らかでない。そこで、ラットに高脂肪食を与え、全身の胆汁酸組成の網羅的解析、肝臓における胆汁酸前駆体である酸化コレステロール濃度、肝臓における胆汁酸合成に関わる遺伝子発現等を解析することで「高脂肪食摂取による12α水酸化胆汁酸の増加機構」を明らかにする。
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