本研究の最終年度の目標は、これまでの研究で得られた結果を用いて新たな岡多様体のクラスを見つけることと、岡多様体論の応用範囲を広げることの二つであった。一つ目の目標に関して、岡多様体であるかどうかが2001年から問題にされていた重要なクラスとして、次元が2以上の複素Euclid空間内のコンパクト多項式凸集合の補空間があった。本年度の研究では、初年度に得られたGromovの条件Ell_1による岡多様体の特徴付けを多変数複素力学系の手法と組み合わせることで、このクラスの岡性を証明することができた。 この結果は、長年の未解決問題を解決するだけではなく、双対Levi問題と呼ばれるべき岡性に関する新たな基本的問題を生み出すものである。従来のLevi問題は、岡性の双対的性質であるStein性を領域が持つための幾何学的条件を問うものであった。これに対し、双対Levi問題は領域が岡性を持つための幾何学的条件を問うものであり、今回の結果は岡性と領域の擬凹性が関係することを示唆している。 またここ数年で、複素代数多様体の圏や複素同変多様体の圏において条件Ell_1を考えることで、複素多様体の圏以外でも岡多様体論を展開できることが明らかになってきている。二つ目の研究目標に関連して、本年度はこれらの圏における岡多様体論の研究も行った。複素代数多様体に対しては、代数的岡多様体の爆発の岡性や、非退化トーリック多様体などを含む代数的岡多様体の大きなクラスに対するジェット横断性定理を確立した。また複素同変多様体に対しては、同変的条件Ell_1による同変的岡性の特徴付けや、同変版局所化原理を証明した。
|