研究課題
今年度の研究実績として、本研究ですでに同定している発がんタンパク質PPM1D特異的イオン応答性アプタマー(Ion-responsive DNA Aptamer; IRDAptamer)を実際に細胞や生体内に投与した際の安定性を確認するために、分解耐性解析を行った。その結果、Q5Fがイオン依存的にG-quadruplex構造を形成し高いヌクレアーゼ耐性、血清中安定性を獲得することを確認し、特別な化学修飾無しに薬剤として用いることができることが示唆された。さらに、本アプタマーの細胞膜透過性を確認したところ、特別な試薬を用いず細胞内に導入可能であることが示された。またこれまで、Q5Fはナトリウムイオン存在下においてカリウムイオン存在下よりもPPM1D阻害効果が高いことをin vitro実験で明らかにしている。そこで細胞内においてもイオンによる機能のON/OFFスイッチングが可能かどうかを細胞内のナトリウムイオン濃度を増加させ、カリウムイオン濃度を減少させるウアバインを用いて検証した。乳がん細胞MCF7に対して、Q5Fを単独で投与した場合よりも、Q5Fとウアバインを併用投与した際に高い抗がん活性が観察されたことから、外部刺激により細胞内のQ5Fの構造・PPM1D阻害効果をON/OFF制御が行えた可能性が示され、外部刺激により機能制御可能な抗がん剤のリード化合物として展開可能であることが示唆された。この結果からイオン応答性DNAアプタマーの機能スイッチング法を確立した。これに加え、PPM1D-IRDAptamer複合体の共結晶構造解明のため、PPM1Dの高濃度・高純度発現精製法の開発を行った。精製タグの位置、精製溶液の詳細な検討により、最適な精製法を確立した。これらの研究成果について特許出願1件、学会発表4件を行った。
2: おおむね順調に進展している
アプタマーの分解耐性、膜透過性の解明や、細胞内における機能スイッチング法の開発を行うことができたため、抗がん剤としての有用性を示せたと考えられる。また、PPM1Dの結晶化のスクリーニング実験の実施につながる精製条件の決定を行うことができた。また、国内外の学会での研究成果発表も行っている。
今後の研究の推進方策としては、これまで同定したイオン応答性アプタマー(IRDAptamer)の抗がん剤への展開、およびPPM1D-IRDAptamer複合体の結晶化の実施を行う予定である。抗がん剤への展開としては、細胞への膜透過メカニズムの解明と細胞内導入法の最適化、ならびにアプタマー腫瘍モデルマウスへの投与を行い、抗がん剤としての投与法の最適化や生体内での薬物動態、腫瘍抑制効果の確認を行う。また、イオン刺激によるスイッチング法は確立は今年度まで行ったが、より低毒性・簡便なスイッチング法を開発するため、光応答性分子をアプタマーに修飾し光によりアプタマーの機能を制御する系を確立する。これらにより本研究で同定したアプタマーの抗がん剤への展開を行うとともに、さらに副作用の少ないがん治療の開発を目指す。PPM1D結晶化剤への展開としては、条件を決定したPPM1D発現精製法により得たPPM1D精製液を用いて、PPM1D-アプタマー複合体の共結晶構造解明を行う。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 産業財産権 (1件)
Catalysts
巻: 9(10) ページ: 1-16
doi:10.3390/catal9100842