研究課題/領域番号 |
18J20438
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
AAMES Jimmy 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | Charles S. Peirce / 記号論 / 形而上学 / 科学哲学 / 物理学の哲学 |
研究実績の概要 |
(1) Peirceの記号論の背景にある実念論を,彼の連続主義との関係に焦点に当てて考察した.Peirceが晩年に,それまでのScotus流の実念論から,より「極端な」実念論へと立場を転換したことはPeirce研究者の間でよく知られているが,この転換のきっかけを,Peirceが1896年に(Cantorとは独立に)今日Cantorの定理として知られる集合論の定理を発見したことに求め,Cantorの定理とPeirceの実念論との繋がりを考察した.この研究の成果は,2018年6月に神戸大学で開催されたアメリカ哲学フォーラム第5回大会で発表した.
(2) Peirceの哲学の現代物理学への応用可能性を探る上での準備として,現代物理学の支柱の一つである量子力学の時間対称的な解釈の一つである「取引解釈」の研究を行った.取引解釈は,物理学者John G. Cramerが1980年代の一連の論文で発表した量子力学の新たな解釈であり,J. A. WheelerとRichard Feynmanによる古典電磁気学への時間対称的なアプローチであるWheeler-Feynman吸収体理論を量子現象にさらに拡張したものである.近年,物理学の哲学者Ruth Kastnerが,Cramerによる従来の取引解釈を,さらに「可能主義的取引解釈」という形で発展させている.興味深いのは,Kastnerの理論は,可能態の実在性を認め,それがいかにして現実化されるかに関する理論であり,Peirceが行った潜在性と現実性をめぐる考察と非常に似ている点である.したがって,取引解釈を介することで,Peirceの潜在性と現実性に関する考察を量子力学の解釈に応用することができるかもしれない.こうした動機から,2018年10月,高知工科大学の統合量子素子研究室セミナーで,量子力学の取引解釈をサーベイする内容の発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Peirceの記号論の背景にある実念論について研究が進み,また量子力学の取引解釈のサーベイによって,物理現象へのPeirceの哲学の応用可能性を探る準備が整ったので,おおむね順調に研究が進展していると思われる.
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今後の研究の推進方策 |
いわゆる創発現象を,Peirceの実念論の立場から考察する研究を現在進めている.創発に関する従来の研究では,あくまで観察者の認識的な制約(計算能力の制約や初期条件に関する知識不足など)に由来する認識論的な創発と,認識的な制約の有無に関わらず原理的に説明不可能な現象が生じる存在論的な創発が区別されてきた.しかし,存在論的創発の存在を認める立場と,すべての創発は認識論的だという立場の双方に問題があると考えられる.Peirceの実念論,とりわけ彼の一般者の様相的分析を手かかりに,認識論的創発よりも強く,存在論的創発よりも弱い第三の創発の形態を定式化することを目指している.私はこれを「リアル・パターン創発」と呼んでいる.この種の創発を明確化する上で鍵となるのが、パターン性と一般性の関係についての考察である.現在この研究を進めており,2019年6月に金沢大学で開催される科学基礎論学会でその成果を発表する予定である.また,この研究を論文にまとめて雑誌に投稿する準備を進めている.
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