研究課題/領域番号 |
18J20440
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
土田 芽衣 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | アポトーシス / STK11 / Fas / キナーゼ / 癌 |
研究実績の概要 |
Fasは細胞膜表面に発現し、リガンドと結合すると強力にアポトーシスを誘導することから、癌治療への応用が期待されている。しかし、多くの癌細胞がFas誘導性アポトーシスに耐性を示すことが判明し、Fasを応用した癌治療法は未だ確立されていない。さらに、癌細胞におけるFsa誘導性アポトーシスへの耐性獲得機構についてもその多くが不明である。本研究では、網羅的なRNAiスクリーニングを用いてFas誘導性アポトーシス促進因子として独自に同定したSTK11キナーゼによる、Fas誘導性アポトーシスの感受性調節機構の解明を目的として研究を遂行した。 Fas誘導性アポトーシスは、ミトコンドリアを介した内部経路とミトコンドリアを介さない外部経路という、二つの経路によって誘導される。特に、外部経路はより効率的にアポトーシスを誘導できる経路であるとされるが、アポトーシスに耐性を示す癌細胞では外部経路の活性化が起こりにくくなっていることが示され、癌細胞におけるアポトーシス耐性の一因であることが示唆されている。 本年度の研究では、STK11を発現していないヒト子宮頸癌細胞株HeLaを用いて、STK11およびSTK11のキナーゼ欠損変異体や癌組織で見出されている変異体の再構築細胞を作成し、Fas誘導性アポトーシスにおけるSTK11の機能的役割を解析した。その結果、STK11はFasによるアポトーシス誘導をキナーゼ活性非依存的に促進することが判明するとともに、癌組織で見出されているSTK11の変異体一部はFas 誘導性アポトーシス促進能を示さないことも判明した。さらに、STK11は、Fasリガンド処置依存的に多分子複合体を形成することが判明し、これによりCaspase-8とCaspase-3を近接化し、外部経路によるアポトーシス誘導を促進していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、計画通りにFas下流におけるSTK11のキナーゼ活性非依存的な機能解析を行った。当初は、STK11によるキナーゼ活性非依存的なFas誘導性NF-κB活性化経路制御機構の解析を中心に進める予定であったが、解析の過程で、STK11がキナーゼ活性非依存的にアポトーシスを促進することが判明したことから、キナーゼ活性非依存的なアポトーシス促進機構の解析を優先的に解析した。STK11を発現していないヒト子宮頸癌細胞株HeLaを用いて、STK11およびSTK11のキナーゼ欠損変異体や癌組織で見出されている変異体の再構築細胞を作成し、FasシグナルにおけるSTK11のキナーゼ活性非依存的なアポトーシス促進機構を解析した。その結果、STK11がFasの下流で多分子複合体を形成し、外部経路の活性化を促進することで、効率的なアポトーシス誘導に寄与していることが新たに明らかとなった。これらの結果は、これまで全く着目されて来なかった、外部経路の活性化制御機構の存在を明らかにするとともに、癌細胞における外部経路の不活性化を説明するための分子基盤となりうることが期待できる、極めて大きな成果であると考えている。さらに、癌組織で認められるSTK11変異体の一部が、外部経路活性化能を欠失していること見出したことは、STK11の外部経路活性化能が、STK11の主要な抗腫瘍作用であることを示唆するとともに、本機構が癌の進展と深い関わりがあることを示唆している。よって、当該年度に遂行した、STK11によるキナーゼ活性非依存的なFasシグナル制御機構の解析は順調に進展したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究によって、STK11がキナーゼ活性非依存的にCaspase-8とCaspase-3を近接化する複合体形成を促進することがわかった、また、この複合体の形成は、外部経路の活性化を促進し、より効率的にアポトーシスを誘導する新たな仕組みであることが示唆された。しかし、複合体の分子実態は未だ明らかになっていない。次年度においては、免疫沈降法など、これまで行ってきた生化学的な解析に加え、免疫染色法を用いた解析手法を取り入れることで、複合体の分子実態を解明するとともに、その機能解析を進める。特に、免疫染色法を用いた解析では、In situ Proximity Ligation Assayなど、最新の免疫蛍光法を新に導入して実験を進めるため、その実験系の立ち上げを行う。また、癌において様々なSTK11の変異が報告されていることから、これまで検証した変異体に加え、比較的多くの患者で見出されている5~10種の主要なSTK11変異体において安定発現細胞株を樹立し、Fas誘導性アポトーシス促進機能の有無を評価することで、STK11変異体の網羅的解析を進める。さらに、STK11はキナーゼドメインの他に、核移行シグナル、膜へのアンカーに関与するファルネシル化サイト、上流キナーゼによるリン酸化部位等を有するため、これらの機能欠損変異体を作成し、変異体と同様に安定発現細胞株を樹立し、STK11のキナーゼ活性非依存的なFas誘導性アポトーシス促進に機能するドメインを同定する。以上の結果を統合し、STK11によるCaspase-8およびCaspase-3を包含する新規複合体形成を介したアポトーシス促進機構のモデル構築を目指す。
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