研究課題/領域番号 |
18J20453
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉田 将 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | TPC / フィールドケージ / キセノン / 二重ベータ崩壊 / マヨラナニュートリノ |
研究実績の概要 |
ニュートリノのマヨラナ性検証のため、巨大キセノンガスタイムプロジェクションチェンバー(TPC)を用いてニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊(0νββ)を探索することが本研究の最終的な目標である。当該年度においては、圧力容器容積180 Lの試作機に用いる電場整形電極(フィールドケージ)と高電圧生成回路(CW回路)を開発し、さらにこれらの構成部品のアウトガス量を評価する方法の原理検証を行う計画であった。 フィールドケージについてはまず容積10 Lの小型試作機で新設計の試験を行った。この設計はシミュレーション上では高い放電耐性を持つと期待できたが、試験の結果アノード電極-7 kV・カソード電極-14 kVで放電が生じた。詳細な検討の結果、この放電はシミュレーションでは考慮できない帯電によるものと判明し、これに対処して安定な高電圧動作を実現した。さらに、この知見をもとに帯電を抑止できる新構造を開発した。 CW回路については、低アウトガス材であるポリイミドをベースとしたフレキシブルプリント基板(FPC)によるCW回路を製作・高電圧出力試験を行い、-14 kVという高い出力を得た。さらに入力周波数に対する応答と多段化による出力の変化を調査し、理論予測との比較を行い、目標電圧である65 kVを出力するのに必要な入力振幅・周波数・回路段数を決定し、これが実現可能であることを示した。 アウトガス量評価について、ガス中の部品からのアウトガスにより、シンチレーション光量・検出器面に到達する電離電子数・電子のドリフト速度が影響を受けると予想し、ここから逆にアウトガス量を評価する手法の原理検証を行った。変化の現れやすい状況として空気の混入したキセノンでの測定を行い、特にシンチレーション光の遅い成分とドリフト速度に著しい変化が現れることを発見した。これらの測定によってアウトガス評価が可能になると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初設計のフィールドケージでは、シミュレーションに組み込むことのできなかった帯電の影響によって放電が発生してしまったが、この知見により帯電も考慮の上でさらに放電に強い構造のフィールドケージを設計することができた。 CW回路については、FPC一枚に10段を実装し複数枚を相互に接続することで多段化を達成するというデザインの有用性を検証することができ、さらに目標電圧である65 kVを達成できるという見込みも立った。 アウトガス測定についても感度の高い測定項目を絞り込むことに成功し、これに基づき順調に測定原理を検証していくことができると言える。
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今後の研究の推進方策 |
新設計のフィールドケージについて高電圧印加試験を行い、その結果に基づいて180 L試作機サイズのフィールドケージを設計・製作、宇宙船事象を用いて電場強度・一様性について期待通りの性能が出ることを確認する。また、放電耐性・電場一様度のさらなる向上と、物質量削減を目指して、シート素材によるフィールドケージについても検討を進める。 CW回路については速やかに65 kVの生成を実現し、フィールドケージと合わせて180 L試作機に導入する。多段化によってダイオードの逆電流による出力電圧降下が激しくなる可能性があると予想しており、この場合は高速スイッチングダイオードにより影響の緩和が可能であるか試作し検討する。 アウトガス測定については、アウトガスサンプルを導入した小型TPCにおいてシンチレーション光量・電子ドリフト速度の測定を行い、残留ガス分析計(RGA)によって測定したアウトガス量との関係を調査して、キセノンガスの諸特性によるアウトガス量評価の方法を確立する。
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