行列式点過程とは,相関関数と呼ばれる点過程を特徴づける関数族が一つの核関数の行列式で与えられる点過程である.行列式点過程は反発力が働く粒子系を表すが,DLR方程式で記述されるような点過程とは異なり,粒子間に働く力の記述は非自明である.対数微分は点過程に付随する(reduced)Campbell測度の超関数の意味での微分で定義される.点過程の対数微分は,点過程を平衡状態とする確率力学を記述する確率微分方程式のドリフト項に相当し,粒子のダイナミクスを記述するうえで重要な量である.今年度は有限粒子系による近似を持つ点過程に対する対数微分の計算方法を導出した.前年度は対数微分の存在から点過程を平衡状態とする無限粒子系のダイナミクスの構成を示した.これらを組み合わせることで,行列式点過程以外の点過程に対してもダイナミクスを構成できる.これらの結果は現在論文を執筆中である. 一般に,行列式点過程は連続空間よりも離散空間上の方が扱いやすい.連続行列式点過程のtail自明性やBernoulli性を調べる際には,行列式点過程のtree表現と呼ばれる離散化を用いることが有効であった.今年度は,tree表現をより発展させて,行列式点過程のウェーブレット変換について考察した.tree表現では,核関数をHaarウェーブレットにより変換することで,元の点過程の空間分割による粗視化に相当する離散空間上の行列式点過程を構成した.問題に応じて適切な変換を行うことにより,連続空間上の行列式点過程の性質を離散空間上の点過程から解析することが期待できる.対角化に相当する変換を選ぶことにより,行列式点過程からPoisson点過程のような独立性を抜き出すことが期待できる.独立性は線形統計量の期待値や分散の計算や,サンプリングコストの削減において重要な性質である.来年度以降も引き続き研究を進める予定である.
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