メムリンク《聖ウルスラの聖遺物箱》に関しては、現地調査の成果を2019年の美術史学会全国大会と国際ワークショップで発表し、所属研究室の紀要『京都美術史学』(2021年3月)に論文を上梓した。2021年1月の国際ワークショップでは、写本画家と板絵画家が素描を共有した事例として、ヒューホ・ファン・デル・フースによる女性聖人の素描(コートールド美術館)が、ベニングやダフィットの作品に転用された経緯を論じた。コロナ禍により補助事業期間を2021年9月まで延長し、同年7月の美術史学会西支部例会で、メムリンク《ジャン・ド・セリエの二連板》に関する口頭発表を行った。本二連板の注文主は聖ゲオルギウス弩手組合の成員であると判明したため、右翼に描かれた聖ゲオルギウスの物語場面は弩手組合への帰属を表す、との新たな見解を提示した。また、メムリンク《聖ヨハネ祭壇画》については、2020年3月にベルリン国立絵画館で実見したロヒール《聖ヨハネ祭壇画》との比較検討を進めている。
なお、本報告書への正式な記載は差し控えるが、補助事業終了後(2021年10月以降)の実績を以下に付言する。2021年11月に投稿した拙論「ハンス・メムリンク《ジャン・ド・セリエの二連板》―聖ゲオルギウス弩手組合と騎士道―」は、『美術史』193冊(2022年10月刊行予定)への掲載が決定した。2022年3月の「Joint Art History Seminar Kyoto University - Vienna University」では、「Hans Memling’s Diptych of Jan du Cellier: The Crossbow Guild of St George in a Chivalric Context」と題した英語の口頭発表を行った。今後は以上の研究を総括し、課程博士論文の執筆に邁進する所存である。
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