研究課題/領域番号 |
18J20484
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
古賀 俊貴 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 炭素質コンドライト / アミノ酸 / アミノ酸前駆体化合物 / Murchison隕石 / L体鏡像異性体過剰 |
研究実績の概要 |
初年度の研究活動から、グリコールアルデヒドとアンモニアを用いた反応系において、60℃で6日間加熱する際に空気雰囲気下で反応を進行させたところ、窒素雰囲気下の場合よりもアミノ酸の生成量が約10倍増加することを見出した。そこで、本年度は、この実験系におけるアミノ酸の生成機構をより詳細に解明することを目的とした。その結果、本合成実験において最も生成量が多かったGlycineの前駆体化合物として、N-Oxalylglycineを同定することができた。この化合物は出発物質であるグリコールアルデヒドが酸化された化合物とアンモニアが反応することで生成されることが知られているため、本実験におけるアミノ酸合成において酸化のプロセスが重要であることを示すことができた。その後、CM2コンドライトにおけるN-Oxalylglycineの分布を調査したが、検出することはできなかった。そのため、この化合物が隕石中のGlycineの前駆体として寄与したのならば、隕石母天体環境における水質変成過程において完全にGlycineへと加水分解されたと考えられる。 炭素質コンドライト中のアミノ酸の前駆体化合物を同定するために、Murchison隕石の熱水抽出液を調査したが、本実験に用いられた試料はアミノ酸を多く含んでいない岩片であったことが判明し、抽出液の加水分解前後に増加したアミノ酸の量が比較的小さいことから、前駆体化合物の同定には不適であると考えた。しかし、この画分からは隕石アミノ酸のIsovalineからL体鏡像異性体過剰(約13%)が検出され、熱水抽出後の6M HCl抽出液においてはその過剰率が約7%に低下することを見出した。このような観察結果はこれまで報告されておらず、隕石アミノ酸の鏡像異性体過剰の増幅プロセスを考察する上で、重要な洞察を与えうると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、グリコールアルデヒドとアンモニアを用いた実験系におけるアミノ酸の生成機構の解明に迫ることができたが、その生成機構において、鉱物がどのような寄与を果たし得るかという検証実験は行うことができていない。さらに、本実験において同定されたアミノ酸前駆体化合物を炭素質コンドライト中から同定することができなかったことから、熱水抽出液を酸加水分解したときに生じるアミノ酸は、別の前駆体化合部物に由来することがわかった。これにより、合成実験と独立して、炭素質コンドライト中のアミノ酸前駆体化合物を直接同定する必要が生じた。以上の二つの理由から、本来想定していた研究活動の進捗具合よりもやや遅れている状況である
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今後の研究の推進方策 |
まず、炭素質コンドライト中のアミノ酸前駆体化合物を同定するためには、アミノ酸を多く含む岩片を用いた分析をする必要があるとわかったため、4gのMurchison隕石を200~300mgの岩片に砕き、それぞれのアミノ酸分布を調査することで、どの岩片が本研究の目的に適したものであるかを調査する予定である。このとき、熱水抽出前あるいは後に隕石粉末のX線回折分析を行い、アミノ酸存在量と隕石鉱物の相対存在量に相関を見出せるかも検証する。これにより、将来の隕石アミノ酸分析において、鉱物組成を調査した段階でアミノ酸分布を大まかに推定できるようになると考えている。そして、そのような鉱物的学記載とともに、アミノ酸前駆体化合物を同定することで、隕石アミノ酸の生成と共存する隕石鉱物の関係性を明らかにしたい。 次に、カンラン石粉末存在下における、アルデヒド・アンモニアからのアミノ酸合成実験を行う。実験に使用予定である有機物はフィールド由来の有機物を含むが明らかにしたため、この化合物をあらかじめ処理し、その上で13C同位体標識をした出発物質を用いることで、実験中の反応由来のアミノ酸の生成を証明したい。このとき、カンラン石粉末の有無で、Glycineの前駆体化合物であるN-Oxalylglycineの存在量の変化を調査することで、鉱物が存在することでアミノ酸合成が促進されることを証明したいと考えている。
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