研究課題/領域番号 |
18J20500
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
千歳 洋平 広島大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 励起状態への溶媒効果 / 過渡吸収 / 結合解離の波長依存性 |
研究実績の概要 |
前年度までに我々は,近赤外領域(700 nm)において855 GMと高い2光子吸収断面積を有するπ拡張クマリン型発色団の設計・合成し,光解離性保護基としての応用に成功していた.また発色団の光励起時に一重項酸素が発生することから,励起三重項からの光反応性が示唆された.今回,π拡張クマリン型発色団とその発色団を基盤とするケージド安息香酸について,吸収・発光・過渡吸収スペクトル測定を行うことで,光物性・光反応性をより詳細に調査することができた.このうち,発色団については,吸収・発光スペクトル測定から,主に励起状態に対する溶媒効果の寄与が大きく,特にメタノールのようなプロトン性の極性溶媒においては,励起一重項状態の寿命が短くなるという結果が得られた.このことから,発色団の励起状態のCT性が強いこと,またはプロトン化による基底状態への緩和過程の促進が伺えた.ケージド安息香酸については,光の照射波長を変化させて光生成物分析を行ったところ,クマリン部位と安息香酸を結ぶC-O結合の開裂に関して波長依存性が見出された.具体的には,458 nm励起(S0-S1)の際に,ホモリシス(均等開裂)を経由したラジカル生成物とヘテロリシス(不均等開裂)を経由したイオン生成物の両方が観測されている一方で,355 nm励起(S0-S2)を行った際に,ラジカル生成物の割合が大幅に増加していた.また,ケージド安息香酸のナノ秒過渡吸収スペクトルを測定したところ,458 nm励起の際に400-520 nmと620-800 nm付近に2つの吸収帯が観測されていたが,励起波長を355 nmに変化させた際に,620-800 nm付近の吸収帯が増加していた.この620-800 nm付近の吸収帯はクマリン発色団由来の励起状態吸収であることが分かっており,結合開裂様式を制御させるための重要なファクターとなることが予想された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以前,設計したクマリン型ケージド安息香酸から458 nm励起(S0-S1)の際にホモリシス経由のラジカル生成物とヘテロリシス経由のイオン生成物が両方観測されていたため,ホモリシスした後のラジカル中間体が一電子移動することイオン対になるという,これまでに提唱されてきた反応メカニズムを想定していた.しかし今回新たに355 nm励起(S0-S1)を行った際に得られた生成物分布の結果から,励起波長の選択によって結合開裂様式の制御が可能であることが示唆され,今後の分子設計において有用な知見となることが予想されるため.
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今後の研究の推進方策 |
従来のクマリン型発色団の構造を置換基等により修飾し,量子化学計算によって第一励起S0-S1と第二励起S0-S2の吸収帯を見積もることで,結合開裂様式(ホモリシスとヘテロリシス)を励起波長によって自在に制御が可能な分子を設計・開発することを目指す.
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