研究実績の概要 |
トレハロースは二分子のグルコースがα1-1α結合した非還元性二糖である.一般にトレハロースの合成はトレハロース6-リン酸(Glcα1-1αGlc6P)が合成された後,トレハロース6-リン酸のリン酸基が外される二段階の反応を経る.トレハロース6-リン酸は植物の発生や環境応答に対する生理活性物質として働き,トレハロース6-リン酸量の変化は微量であっても植物の生育に影響を与える.トレハロースの分解はトレハラーゼにより行われる.高等植物ではトレハロース6-リン酸の合成・脱リン酸酵素のアイソザイム(一つの生物中で同じ働きを持ちながらも異なる酵素)を複数持ち,トレハロース6-リン酸やトレハロース量は,複雑・高度に制御されると考えられる.本研究では植物においてトレハロース6-リン酸やトレハロース量を調節するトレハロース代謝酵素の生化学的性質を明らかにすることを目的とした. トレハロース6-リン酸合成酵素については,in vitro翻訳系の導入により,数種のアイソザイムのうち一部が組換え酵素として生産され,従来不活性型と思われていたアイソザイムに活性を見出す等の成果を得た.トレハロース6-リン酸脱リン酸酵素(TPP)については,シロイヌナズナの持つ10アイソザイムの全ての組換え酵素を作製し,機能を詳細に解析した.植物の発現パターンと合わせて主要なTPP(Tre生合成系)を同定した.植物トレハラーゼの研究では,シロイヌナズナの酵素(組換え酵素)について機能発現の分子メカニズムを酵素機能構造解析により明らかにした.基質結合部位が閉塞と開放の2状態を取ること,閉塞状態ではトレハロースに,開放状態ではトレハロース6-リン酸によく作用すること,開閉に伴う触媒残基の状態変化に伴い至適pHが変化することなどを明らかにした.
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