研究課題/領域番号 |
18J20518
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
門脇 万里子 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 腐食 / 電気化学計測 / 鉄鋼材料 / 金属組織 / 固溶元素 / 第一原理計算 / 電子状態 / 炭化物 |
研究実績の概要 |
自動車や構造物として現代社会の基幹を支える鉄鋼材料にとって、ミクロ・ナノレベルの金属組織は、強度や延性など様々な特性を決定する最重要因子である。金属組織は鉄鋼材料の耐食性にも影響をおよぼすが、その詳細は未解明である。今年度は、様々な金属組織的な要素の中でも特に(1)炭化物(セメンタイト)および(2)固溶元素が鉄鋼材料の耐食性におよぼす影響に焦点を当てて研究を行った。 炭化物(セメンタイト)の耐食性調査に関しては、ガス浸炭により作製した単一セメンタイト電極を用いることで行った。その結果、セメンタイトは他の金属組織と比較してアノード溶解しにくいことが判明した。さらに、セメンタイトの溶解に伴ってセメンタイト上に形成する炭素を含む層がバリアーとなり、さらなる溶解が抑制されることを見出した。 鉄鋼材料中の固溶元素が耐食性におよぼす影響の解明については、電気化学測定とコンピュータ・シミュレーションを併用することで実施した。マルテンサイト鋼中に侵入型に固溶する可能性がある炭素・窒素・ホウ素それぞれの元素により耐食性がどのように変化するかを調査したところ、炭素・窒素を多く含む場合はアノード溶解が起こりにくく、かつ局部腐食が発生しにくいことを見出した。その高耐食化のメカニズムを分極測定と第一原理計算により解析したところ、鉄鋼材料中の固溶炭素・窒素は、1) 溶解イオン種の形成と2) 鉄の電子構造の安定化という二つの効果により、耐食性を高めることが判明した。 本年度の研究により得られた成果に関して、3本の原著論文が論文誌(査読有り)に掲載済みである。さらに、国内学会にて2件、国際学会にて1件の口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度までの研究では、鉄鋼材料の微細な金属組織ごとの耐食性の調査に必須である、ナノ・サブミクロン電気化学計測手法や、コンピュータ・シミュレーションの手法を確立することができた。さらに、それらの手法を用いることで、鉄鋼材料の代表的な金属組織(フェライト・パーライト・マルテンサイトなど)の耐食性や、硫黄やリンなどの元素偏析・さらには鉄格子に侵入型に固溶する炭素原子をはじめとした微細な要素が腐食の発生にどのように寄与するのかについて解析することができた。 さらに、当初の計画にあった代表的な金属組織の耐食性の調査だけでなく、現在までに、鉄鋼材料中の様々な固溶元素(炭素・窒素・ホウ素)が材料の耐食性におよぼす影響の系統的な調査にも着手した。そして、当初研究の対象としていた炭素だけでなく、窒素を多く含む材料においても耐食性の向上効果があることが判明した。さらに、その高耐食化のメカニズムを分極測定と第一原理計算により解析したところ、鉄鋼材料中の固溶炭素・窒素は、1) 溶解イオン種の形成と2) 鉄の電子構造の安定化という二つの効果により、耐食性を高めることがわかった。以上の様に、当初の研究内容を進展させた研究テーマについても着手できたこと、および今年度の終了時までに8報の原著論文(筆頭著者論文)と3件の登録特許を発表できたことからも、研究は計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度までの研究により得られた知見を基に、実用鋼の耐食性を向上することを目的として研究を行う。実用鋼として、近年延性や靭性を向上する目的で、微細な残留オーステナイトを含む金属組織設計が行われている。そのような残留オーステナイトを含む金属組織について、昨年までに確立したナノ・サブミクロン電気化学測定手法を使用することで腐食メカニズムを解明するとともに、腐食の起点の根絶のためのアプローチを探索する。昨年までの研究により、鉄鋼材料の耐食性には金属組織中の固溶炭素が大きな影響をおよぼすことがわかっている。残留オーステナイトは金属組織中の炭素が濃縮した部分に形成することが知られており、残留オーステナイトの耐食性についても固溶炭素が重要な影響をおよぼしているものと予想される。さらに、鉄鋼材料にとって強度・靭性などの機械的特性が優れることは非常に重要である。耐食性とそれらの機械的特性を両立するためにはどのような金属組織設計を行えばよいのかについても、研究を行う予定である。
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