研究課題/領域番号 |
18J20520
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
石川 奨 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | 有機分子触媒 / 塩基触媒 / 不斉反応 / 付加反応 / ウレア |
研究実績の概要 |
ブレンステッド塩基を触媒として用いた、プロ求核剤の脱プロトン化を起点とする分子変換反応は、有機化学における最も基本的な触媒反応であり、古くから精力的に研究が行なわれてきた。特に近年においては、キラルブレンステッド塩基触媒の開発およびそれらを用いた不斉触媒反応の開発が盛んに行なわれている。しかしながら、キラル第3級アミンに代表される従来の触媒においてもなおその塩基性は低く、反応に適用可能なプロ求核剤は、pKaの値が20以下の酸性度が高い化合物に限られている。従ってプロ求核剤の適用範囲を拡充し、さらなる不斉触媒反応を開発するためには、新たな分子設計に基づく強塩基性キラルブレンステッド塩基触媒の開発が必要不可欠である。 このような背景のもと今回我々は、水素結合供与体として知られるウレアのN-Hを脱プロトン化することで生じるウレエートを強塩基性部位として利用した、新たなキラルブレンステッド塩基触媒の設計・開発を行なった。具体的には、側鎖にシッフ塩基部位とアミド部位を導入した光学活性N,N'-ジアルキルウレエートを開発した。 本触媒の機能評価を目的として、比較的酸性度が低いα-チオアセトアミドをプロ求核剤として用いた、ビニルスルホンへの触媒的不斉付加反応を行なった。その結果、高収率かつ高エナンチオ選択性で目的の付加生成物が得られた。従って、我々が設計した光学活性N,N'-ジアルキルウレエートは、強塩基性キラルブレンステッド塩基触媒として機能することが明らかとなった。またビニルスルホンのみならず、その他の求電子剤を用いた場合においても、高収率かつ高エナンチオ選択性で目的の付加生成物が得られることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた、側鎖にヒドロキシ基を有する光学活性N,N'-ジアルキルウレエートの開発は現在検討段階にある。その一方で我々は、側鎖にシッフ塩基部位とアミド部位を有する光学活性N,N'-ジアルキルウレエートを新たに設計し、その触媒ライブラリーの構築を行なった。また1年目のうちに、触媒ライブラリーを活用して反応探索を行ない、実際に酸性度の低いプロ求核剤を用いた高収率かつ高立体選択的な不斉触媒反応の開発を達成した。このように、我々が設計した光学活性N,N'-ジアルキルウレエートが、強塩基性キラルブレンステッド塩基触媒として機能することを明らかにし、今後さらなる反応開発への展開が期待できることから、「研究の進捗状況」として「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
当初計画していた、側鎖にヒドロキシ基を有する光学活性N,N'-ジアルキルウレエートの開発は引き続き検討していく。その一方で、新たに設計・開発した、側鎖にシッフ塩基部位とアミド部位を有する光学活性N,N'-ジアルキルウレエートの触媒ライブラリーを活用して、さらなる不斉触媒反応の開発を進める。。具体的には、エステルやスルホン、リン酸エステルなど、α 位のプロトンの酸性度が低く従来のキラルブレンステッド塩基触媒反応系では適用が困難であったプロ求核剤を対象とし、種々の求電子剤への触媒的不斉付加反応を検討する。また3年目に計画した、生物活性物質の基本骨格に含まれる含窒素ヘテロ環化合物の直接的かつ触媒的な不斉官能基化などの検討も併せて行なう。これらの検討により、精密有機合成化学や創薬分野等へ新たな知見を提供することを目指す。
|