研究課題/領域番号 |
18J20534
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
大田 守浩 熊本大学, 自然科学教育部, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 線虫 |
研究実績の概要 |
SR培養液由来の線虫誘引ペプチドの単離・精製実験については、HPLC精製などを繰り返し行い、線虫誘引ペプチドの構造決定を試みた。研究計画通り順調に進んでおり、単一ピークにまで絞れてきている。今後は陰イオン交換クロマトグラフィーなど、異なる性質のカラム導入を行うことによって、修飾基を含めた精製ペプチドの構造決定を目指す。 また、上記のSR培養液由来の線虫誘引ペプチドに関する研究に加えて、ダイズ根抽出液からの線虫誘引物質の単離・精製実験も行なった。SR培養液と同様に、線虫誘引活性を指標に精製を進め、最終精製画分に対してHPAEC-PAD解析を行った結果、グルコマンナンがダイズ根抽出液由来の線虫誘引物質であることが示唆された。これら線虫誘引グルコマンナンについての内容は、細胞壁研究者定例研究会にて「植物感染性線虫に対する誘引物質の解析」 という演題で口頭発表を行い、口頭発表優秀賞を受賞した。 また、カダベリンの実験に関しては、類縁体として炭素架橋数が3-9のジアミン化合物に焦点をあてて線虫誘引試験を行った。その結果、1-3ジアミノプロパン、プトレシンを含む、炭素架橋数が3-5のジアミンに線虫誘引活性があることが明らかになった。さらに、線虫誘引活性のあるダイズ根抽出液のLC-MS解析を行ったところ、1-3ジアミノプロパン、プトレシン、カダベリンが検出された。線虫は、ダイズに含まれる炭素架橋数が3-5のジアミンに誘引されていると考えられる。 さらに,カダベリンを線虫感染効率の低いシロイヌナズナの根端に処理すると、処理していないコントロールと比較して、線虫感染効率が上昇することが明らかになった。これらの内容は、欧州線虫学会にてでポスター発表し、現在は上記の発表に基づいた論文をMol.Plantに投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者の研究は、植物感染性線虫に対する誘引物質の探索である。研究計画の主要な項目である、線虫誘引ペプチドの単離について、順調に精製が進んでおり、かなり単一のピークにまで絞れてきている。あと少しで単離・同定が可能ではないかと考えられる。一方、化合物ライブラリーより単離したカダベリンの研究に関しては、様々な類縁体に対して線虫誘引試験を行い、炭素架橋数が3-5のジアミンに線虫誘引活性があることを明らかにしている。このことは、炭素鎖の長さの厳密な制御が、線虫での受容過程で行われていることを示唆しており、その受容体の推定も終了している。今後、植物側だけでなく、線虫側の因子についての研究発展にも繋がる成果だと考えられる。カダベリン、また、炭素差が3-5のジアミン類に線虫誘引活性が有ること、大豆の根抽出物からこれらの物質が単離・同定出来たこと、並びに、根からカダベリンが濃度勾配を作って、培地中に拡散していること等から、カダベリンが根から放出される誘引物質である事を明確に示すことが出来ている。これらの結果をまとめた論文を執筆し、Nature Chemical Biology, Nature Communicationsに投稿したがrejectであったので、現在Mol.Plantに投稿中である。 以上のように、申請者の研究は極めて順調に進んでおり、期待以上の研究の進展があったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は陰イオン交換クロマトグラフィーなど、異なる性質のカラム導入を行うことによって、修飾基を含めた精製ペプチドの構造決定を目指す。構造が確定したら、人工合成ペプチドを作成し、逆相HPLCの溶出位置を比較する等して、化学的性質が同じである事を確認すると共に、バイオアッセイによって、その同定したペプチドが、真の線虫誘引物質である事を確認する。 誘引物質としてのグルコマンナンに関しては、ダイズ根抽出液からさらなる精製を行うことにより、糖の組成まで明らかにしていきたいと考えている。
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