研究課題/領域番号 |
18J20536
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岡島 智美 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ミクログリア / ヒポキサンチン / 発達過程 / 形態 / Fat3 |
研究実績の概要 |
ミクログリアは中枢神経系における免疫担当細胞である。近年ミクログリアは、発達過程の神経回路構築にも重要であることが報告されている。ミクログリアは発達過程で時間依存的な形態の変化や領域依存的な形態的特徴が観察されているが、ミクログリアの形態を制御する因子についてはあまり知られていない。本研究ではミクログリアの形態を変化させる候補因子としてヒポキサンチンによって発現誘導されるFat3という因子を見出した。本研究課題では、(1) Fat3遺伝子欠損によるミクログリア形態への影響と(2)Fat3標的分子の探索と解析、(3)ヒポキサンチンがFat3の発現を誘導する機構の解明を目的としている。(1)の結果として、令和元年度にFat3遺伝子欠損マウスにおいて、ミクログリアの形態を様々な要素から測定を行なった。また、CX3CR1GFP/+マウスにおいて、Fat3のミクログリアにおける発現量が生後週齢依存的に上昇していくことを明らかにした。 (2)では、Fat3の標的分子を他の細胞膜上や細胞外マトリックスから探索するために、Fat3欠損マウスのミクログリアを神経細胞やアストロサイトを共培養実験系によって解析を行う予定である。今年度はFat3がシナプスの数に影響を及ぼすことを明らかにし、シナプスの形成や剪定に影響を及ぼすことを共培養実験系によって明らかにしていく。 (3)の検証については、in vitro 系でミクログリアにおけるヒポキサンチンの細胞内の濃度上昇が形態の変化に重要であることが明らかとなった。細胞内のヒポキサンチン濃度を調節するsalvage pathwayとの関連性を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)ヒポキサンチンがどの様な経路を通じてFat3の発現上昇を誘導するかを明らかにするために、BV-2に対しヒポキサンチンの輸送や受容体になると想定されるタンパク質の阻害剤を処理し、ミクログリアの形態を観察した。その中で、ヒポキサンチンの流出を行うENT2トランスポーターを阻害すると、細胞内のヒポキサンチン濃度が上昇し、突起の形成が促進したことを見出した。以上の結果から、細胞内のヒポキサンチン濃度の上昇がミクログリアのFat3の発現上昇に影響を及ぼすことを示した。 (2)ミクログリアにおけるFat3の発現量を明らかにするために、昨年作成したFat3抗体を用いて、CX3CR1GFP/+マウス新生児時期のマウスを週齢ごとに染色した。その結果、Fat3のミクログリアにおける発現量が週齢依存的に上昇していくことを明らかにした。さらに、昨年度作出したFat3欠損マウスを用いて、ミクログリアの形態を解析したところ、Fat3欠損マウスのミクログリアでは発達段階後期でラミファイド化が進行していることを見出した。以上の結果より、Fat3の発現上昇がミクログリアのラミファイド化の進行に抑制的な働きを示している可能性が示唆された。 (3)Fat3欠損マウスのミクログリアではラミファイド化が進行していたことから、ミクログリアの活性状態について影響があるのではないかと予想した。その結果、ミクログリアの成熟段階後期で、早期に発現上昇が見られるCD68の発現が減少し、後期に発現上昇するP2RY12が発現上昇することを明らかにした。さらに、Fat3欠損マウスでは野生型と比較してシナプスの減少が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において、ミクログリアのFat3はシナプスの形成に影響を及ぼす可能性が明らかになった。神経細胞では標的となるタンパク質が発現している可能性があると考えられるため、今後ミクログリアFat3を介した神経-ミクログリア相互作用を調べていく。また、シナプスでの神経―ミクログリアFat3の結合が、どのように下流の遺伝子に影響を及ぼしているかも検証を進めていきたいと考えている。
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