最終年度である本年度はこれまで開発してきた方法を総合して、カルデラ・レゲット模型を核融合反応へと応用し、またその結果について考察した。 核融合問題への応用にあたり、昨年度行った一次元障壁透過問題への応用の際に使用した手法は、遠方でも働くクーロン力のために、核融合問題には適さない事が判明した。この点について、別の方法が適している事を数学的に見出し、また実際計算することで有用性を確かめた。 この進展をもとに、カルデラ・レゲット模型を核融合問題へと応用し、散逸や揺らぎが核融合反応に及ぼす影響を議論した。摩擦係数として、古典ランジュバン計算の先行研究でよく用いられる模型を採用した。結果として、クーロン障壁以上、以下どちらの入射エネルギーにおいても散逸や揺らぎがある場合核融合断面積が減少する事がわかった。その起源について、クーロン障壁以上の入射エネルギーにおける核融合断面積の減少は古典的に解釈できる事がわかった。一方で、クーロン障壁以下の入射エネルギーでは量子トンネル過程における摩擦力が主な原因となる事がわかった。また、励起スペクトルを解析したところ、透過波に対する摩擦力の影響が重要となっている事がわかった。原子核衝突における摩擦係数は、衝突核が接触する近傍においては、核間距離が小さくなるほど急激に増大していく。反射波は摩擦係数が小さい障壁の外側を主に伝搬するために摩擦の影響をあまり受けない一方で、透過波は障壁内側へと到達するので摩擦の影響を大きく受け、その結果核融合断面積が減少する事を明らかにした。このように反射成分と透過成分が受ける摩擦の影響が異なるというのは量子力学特有の性質である。また、他の量子散逸系では議論されてこなかった原子核衝突に特有な性質であり、今回の計算によって初めて明確にできた点である。
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