研究実績の概要 |
申請者は、雌キイロショウジョウバエにおいて、交尾がどのようにして卵をつくるもととなる細胞である生殖幹細胞の増加を促すかの解明を目指した。当該年度では、申請者は卵巣の生殖幹細胞ニッチにおいてマトリックスメタロプロテアーゼ2(Mmp2)がどのようにして生殖幹細胞へと増殖のシグナルを伝達するのかを追求した。その結果、交尾後の生殖幹細胞の増加には生殖幹細胞ニッチにおいて発現するMmp2が必要であること、少なくともMmp2の活性が重要であることを明らかにした。残念ながら、膜結合型プロテアーゼであるMmp2の生殖幹細胞ニッチにおける基質の同定にまでは至らなかったが、昨年度まで未知であった神経伝達物質オクトパミンから生殖幹細胞増殖までのブラックボックスをMmp2で埋めることができた。実際の生殖幹細胞ニッチにおけるMmp2の基質同定は、本分野の今後の課題となると考えられる。 また、申請時に予定していた通りに、本研究の成果を論文として対外的に発表することができた(Yoshinari et al. elife, 2020)。 本研究によって明らかにされた’交尾ーオクトパミン神経ー生殖幹細胞ニッチのオクトパミン受容体ーMmp2ー生殖幹細胞の増殖’の一連の経路は、雌キイロショウジョウバエが交尾に応じて多くの卵を作るために重要な機構であると考えられる。さらに、哺乳動物においても、交感神経は卵巣へと投射することが知られており、排卵や、配偶子形成になんらかの機能を持つことが考えられる。本研究は、哺乳動物にも同様の機構として存在する可能性がある経路をキイロショウジョウバエで明らかにしたものであり、比較生理学、比較内分泌学的観点からも非常に意義深いものであると考えられる。
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