研究課題/領域番号 |
18J20587
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福原 友裕 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 有機太陽電池 / 共役高分子 / 電荷再結合 / 電荷寿命 / 曲線因子 |
研究実績の概要 |
高分子材料を発電層に用いた有機太陽電池(OPV)においては、取り出し可能な最大の電流である短絡電流と、電荷回収効率を表す曲線因子がトレードオフの関係にあり、変換効率の向上を妨げている。このトレードオフを解消するためには、OPVにおける電荷のダイナミクスが素子特性に与える影響を明らかにし、電荷再結合を抑制するための要因を解明することが必要である。本年度は、高分子鎖へのフッ素導入によって曲線因子が系統的に変化する、PNTz4T系について、高分子の局所構造の観点から考察を進めることで、曲線因子の変化を説明することを可能とした。 これらの系に対してX線回折測定を行い、高分子の局所構造を評価した。結晶性の指標である結晶子サイズを評価したところ、厚膜化により曲線因子が低下するPNTz4TF2およびPNF4TF2においては厚膜で結晶子サイズが小さく、結晶性が低下していることが分かった。また、DFT計算によって、高分子を構成する各ユニットが形成する双極子を算出した。その結果、PNTz4TF2およびPNF4TF2においては、チオフェン部位にフッ素があることで双極子同士が反発するために、高分子のスタックが阻害され、結晶性の低下につながっている可能性があることが明らかになった。結果として、前年度に評価した再結合損失と、本年度に評価した局所構造の影響を考慮すると、曲線因子の大小および膜厚依存性の傾向が説明できることを明らかにした。そして、フッ素が形成する双極子が反発しない位置にフッ素を導入することで結晶性が維持できるという設計指針が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、OPVにおける電荷のダイナミクスが素子特性に与える影響を明らかにし、電荷再結合を抑制するための要因を解明することである。これにより、厚膜においても高い電荷回収効率を実現できることが期待される。本年度は、曲線因子の膜厚依存性が異なる系についての考察を進め、高分子の局所構造との関係を検討した。その結果、再結合損失および高分子の配向性の影響を考慮することで曲線因子の傾向が説明できることを明らかにし、フッ素が形成する双極子が反発しない位置にフッ素を導入するという設計指針が得られた。電荷再結合を抑制するための具体的な材料設計指針が得られたため、研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果を踏まえ、今後は再結合の抑制機構についてさらに検討を進める。再結合損失を左右する要因としては、高分子材料の結晶性に加えて、再結合が起こるドナーとアクセプターの界面の状況が重要であると考えられる。結晶性高分子とアクセプター低分子のブレンドにおいては、高分子の結晶相とアクセプターの凝集相、そして界面の混合相という三相が存在すると考えられている。そして、高分子の形態の違いにより結晶相の方がエネルギー的に安定になり、階段状のエネルギー構造が形成されると考えられている。このような界面構造は電荷のダイナミクスにも大きく影響すると考えられるが、界面構造の制御が困難であることから、検討が進んでいなかった。そこで今後は、界面エネルギー構造に違いがあることが明らかにされているPTzBT-BOHDおよびPTzBT-12OD系に着目する。これらは、同じ主鎖構造をもつが、側鎖の分岐のみが異なる。そして興味深いことに、結晶相のHOMO準位は同じであるにも関わらず、界面混合相のHOMO準位に約70 meVの差があることが分かった。そのため、今後はこの系の電荷ダイナミクスを詳細に解析することで、ヘテロ接合界面における階段状エネルギー構造が与える影響を検討していく。
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