高分子材料を発電層に用いた有機太陽電池(OPV)においては、取り出し可能な最大の電流である短絡電流と、電荷回収効率を表す曲線因子がトレードオフの関係にあり、変換効率の向上を妨げている。このトレードオフを解消するためには、OPVにおける電荷のダイナミクスが素子特性に与える影響を明らかにし、電荷再結合を抑制するための要因を解明することが必要である。本年度は、側鎖の分岐の違いにより開放電圧が異なるPTzBT系に着目することで、再結合を抑制するための理想的な界面構造とその設計指針について検討を行った。まず、開放電圧の温度依存測定を行った結果、開放電圧の差は電子ドナー材料とアクセプター材料の界面エネルギー準位の差に起因することが分かった。そこで、サイクリックボルタンメトリー測定を行い、高分子の結晶相と界面混合相のHOMO準位を分離評価した。その結果、結晶相のHOMO準位が同じである一方で、界面混合相のHOMO準位に差が見られることが分かった。したがって、開放電圧の違いは界面混合相のHOMO準位の差であると結論付けた。側鎖の違いによりこのような差が生じた原因について、DFT計算を行い考察した。その結果、HOMO準位の差は主に側鎖の立体障害による結合二面角の違いに起因する、電子的効果によることが明らかになった。すなわち、適切な側鎖の設計により結晶相のHOMO準位は維持したまま界面混合相のHOMO準位を調整し、開放電圧の向上につなげることができると言える。このような結晶相と混合相のHOMO準位の差はエネルギーカスケードと呼ばれ、電荷がよりエネルギー的に安定な結晶相へと移動しやすくなるため、再結合の抑制に有効である。したがって、側鎖の設計が、再結合の抑制において理想的な界面構造を実現するための手段のひとつであることを明らかにした。
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