研究課題/領域番号 |
18J20651
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松尾 和哉 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 心的外傷後ストレス障害 / 脂肪酸結合タンパク質 / ドパミン受容体 / 恐怖記憶 |
研究実績の概要 |
脂肪酸結合タンパク質 3 (FABP3) と心的外傷後ストレス障害 (PTSD) との関連についての研究成果を共著者として学術論文を投稿し、国際学術誌 Molecular Neurobiology 誌へ掲載された。マウスへ電気刺激を与えると、恐怖記憶としてその情報が固定される。その後電気刺激を与えずに同じ環境へ野生型マウスを曝露し続けると、次第に恐怖記憶が消去されていく。一方 FABP3 欠損マウスではこの消去が起こらず、電気刺激後 1 か月経過しても恐怖記憶が保持されていた。すなわち、FABP3 欠損マウスは PTSD 様の表現型を示した。FABP3 欠損マウスに対し、既存の睡眠薬でありメラトニン受容体のアゴニストであるラメルテオンを投与すると恐怖記憶の消去が促進された。ラメルテオンの改善効果における神経メカニズムとして、前帯状皮質および扁桃体の異常な神経活動の正常化を明らかにした。これらの脳領域における神経活動異常は PTSD 患者においても報告されている。本研究により、PTSD モデルマウスとしての FABP3 欠損マウスの有用性と、治療薬としてのラメルテオンの有効性が示唆された。 一方、FABP3 とドパミン D2 受容体 (D2R) の相互作用が PTSD においてどのような役割を果たしているかは不明である。D2R 欠損マウスでは不安行動の亢進が認められるが、共同研究者である東北医科薬科大学の山本由以博士は、FABP3 欠損マウスも同様に不安行動が亢進すること、そのメカニズムとして前帯状皮質における GABA 神経活動の亢進が関与することを明らかにした。従って今後、前帯状皮質における FABP3 と D2R の機能的役割について明らかにする必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的であった D2R 欠損マウスにおける恐怖記憶については本年度中に終了することができなかったため、次年度に継続して行う。一方、FABP3 欠損マウスが PTSD 様の恐怖記憶障害を示すことを見出し、その研究成果が本年度に国際学術誌へ掲載された。また、FABP3 欠損マウスにおける恐怖記憶や不安などの情動行動において、前帯状皮質における神経活動が関与していることも共同研究者により発表された。本年度の研究により、FABP3 が恐怖記憶に関与すること、そこに関与する脳領域として前帯状皮質が重要であることが示唆された。よって次年度は D2R 欠損マウスの行動表現型のみならず、前帯状皮質における FABP3 と D2R の機能についても解析を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き、D2R 欠損マウスにおける恐怖記憶についての行動表現型の解析を進め、FABP3 欠損マウスで認められる PTSD 様の行動障害に D2R が関与しているか明らかにする。 また、前帯状皮質などの PTSD に関与する脳領域の神経活動やシグナルの変化を明らかにする。特に、FABP3 欠損マウスでは前帯状皮質における GABA 神経の異常が不安亢進に関与することが明らかとなったが、GABA 神経系において具体的にどのような分子の変動が関与しているかは不明である。従って今後、FABP3 欠損マウスや D2R 欠損マウスにおける脳網羅的な遺伝子解析を行い、PTSD 発症の神経メカニズムに関与する分子を明らかにしたい。
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