研究課題/領域番号 |
18J20661
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
王 文潔 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 創発ネットワーク / ブリコラージュ / 市民エージェント / 災害ボランティア / 即興 / 連携・協働 / 地域資源 / みなし仮設 |
研究実績の概要 |
本研究は、災害時における組織間の「連携」のプロセスに注目し、「連携」の関連組織の資源、活動領域、意識などの変動を捉えることによって、より強靭な復興のための連携活動のあり方を明らかにすることを目的とする。平成30年度は、主に以下の三点を行った。 1)熊本地震を機に立ち上げられたネットワーク組織において重点的な調査を行い、調査対象を広げ(構成団体と支援を受ける被災者)、詳細な事例検討を行った。その結果、災害時の創発的な課題にあえて取り組む草の根的な地元支援団体の活動動機や、地震前の組織基盤状況と活動領域を明らかにし、多様な視角からネットワーク内の人間関係の機敏を捉えることができた。さらに旧来の地域ネットワークと、地震を機に形成した新しい広域ネットワークとの相互作用を検討した。 2)ネットワーク組織を含んだ複数の支援組織、支援を受ける被災者へのインタビュー調査を通して、異なるネットワーク組織が交代して災害のフェーズごとの課題に対応する機能が必ずしも十分に備わっていないことがわかった。また、生活再建の準備段階にとどまるボランタリー活動の持続性と専門性の不足を指摘できる。したがって「見守り支援」にとどまらず多様な主体と連携し、生活再建支援の制度や法律を活用するケースマネジメントが求められる。このような動きは今後の災害支援の分野において重要視されていくと考えられる。 3)熊本地震、九州北部豪雨、西日本豪雨の仮設入居者の中で、みなし仮設入居者が圧倒的に多数を占めるにもかかわらず、プレハブ仮設に比べて支援のノウハウが顕在化してこなかったゆえに十分な支援を得られないという声が、上記3つの被災地での調査を通して多く聞かれた。このような「相対的剥奪」という状況に置かれている被災者は創発的、多問題的な課題を抱えており、それに対する支援として、多様な主体による連携型支援と直接支援が有効であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前期は、調査対象である多岐にわたる個人や団体とのネットワーク構築を行い、インタビュー調査と参与観察を計画的に実施することができた。また得られたデータについてはこれまでのデータと整合し、分析・考察を進め、それぞれ研究成果にまとめることができた(学会発表:査読有2・無1、論文投稿:査読有1)。加えて、学会発表や査読のプロセスでは、ほかの研究者や実践者から貴重なフィードバックを得られた。それに基づき来年度以降の研究に向けた計画や理論枠組みを練り直すことができた。 後期は大阪北部地震、台風21号災害、平成30年7月豪雨災害が立て続き発生した。中でも北部地震の際に避難所やボランティアセンターで情報収集をし、これまでの調査で十分考慮できなかった初動段階の貴重なデータを入手することができた。また本研究の対象でもある多様な連携会議に参加したうえで当事者として多様な支援者と情報や意見を交換した。加えて熊本地震の支援活動が収束し、平常時に移行する重要な時期にフィールドへ定期的に通うことができたことによって、データの連続性を維持できた。
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今後の研究の推進方策 |
熊本におけるネットワーク組織の事例研究を継続する。加えてみなし仮設、在宅被災者支援を行っている類似の組織について、宮城県石巻市、岡山県倉敷市、福岡県朝倉市などの地域での取り組みとの比較も視野に入れている。これについても平成30年度の調査と併せて学会で報告し、論文化する予定である。また平常時のケアマネジメントや多職種連携など、理論的な側面を強化するとともに、最新の理論についても国内外で摂取するように心がける。
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