本年度は、採用最終年度として期待以上の進展があったといえる。新型コロナウイルス感染症の世界的な流行という未曾有の状況下において、被災地での実践活動の計画を大幅に変更したが、各調査事例に関して蓄積してきたデータを分析し、理論枠組みを精緻化する作業に取り組んでいた。具体的に、 1)本研究は一貫して創発的な連携の動きを災害時の突発的な現象として捉えるのでなく、災害発生前の地域の特性に加え、市民活動への波及効果についても検討してきた。この点を念頭に置き、前年度から着手した事例分析をさらに発展させた。中でも被災地における地域食堂の事例研究を通して支援者を取り巻く社会的ダイナミクスを捉え、平常時の社会ネットワークの要素が災害支援の文脈において再認識されるプロセスを描き出した。また熊本県宇城市豊野町における住民主催の復興イベントの事例研究では、イベントの成立に寄与する地域の宗教文化に加えて、イベントを下支えする協働ネットワークが地域の災害救援ネットワークとして機能し、豊野町にとどまらず広域的支援につながる可能性を見出した。 2)昨年度の計画通り、災害時の市民エージェント間の連携の特徴を反映するような実践理論の構築に向けて、既存研究から発展できた点や各事例研究の関連性を再検討した。中でも地域住民という支援主体に分析の焦点を当て、研究の意義と新規性をより一層打ち出した。また連携会議やネットワーク組織と銘打たずに緩やかに形成された多様な場に関する議論を深めたことを通して、災害時のみならず平常時の地域活性化にもつながる、地域住民を中心とした支援活動の実践知を提示した。 以上から、2021年3月に大阪大学大学院人間科学研究科より学位を取得したほか、並行して上記の研究結果を学術雑誌へ論文投稿(査読有5、無1)を行い、学会(国内1・国際2、査読有)での発表を通じ、成果の発信に努めた。
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