私はこれまでに、優れた不斉環境と配位力をもつ不斉金属触媒の開発を目指し、ペンタメチルシクロペンタジエニル(Cp*)基をもつ面性不斉環状アミノフェロセニレンカルベン(CAFeC)配位子の開発を行っている。これまでに開発したCAFeCが配位したIrジカルボニル錯体のIR測定を行い、Tolman electronic parameter (TEP)を見積もることで、窒素原子を一つしか持たない環状アミノアルキルカルベンを上回る配位力を持つことを明らかにしている。 今回私は、より魅力的な不斉空間を構築する目的で、Cp*基をペンタフェニルシクロペンタジエニル(C5Ph5)基に置き換えたCAFeCの開発を実施した。キラルアセタールとホルミル基をもつペンタフェニルフェロセンを出発原料とし、シアノ基を含むWittig試薬を用いて、ホルミル基をシアノオレフィンへと変換した。その後、LiAlH4を用いることで、シアノオレフィンを一挙に還元し、中程度の収率で目的のアミンを得ることができた。その後、アセタールの脱保護を伴う環化、続くアルキル化によってカルベン前駆体の合成を達成した。 続いて、得られたカルベン前駆体からカルベンが発生するかどうかを確認した。以前、プロトタイプCAFeC前駆体からカルベンが発生するかどうかを、NMR実験で観測しようと試みたが、低温条件下であっても、目的のカルベンは分解してしまったため、硫黄による捕捉実験で間接的に確認している。そこで今回も同様の手法で確認することにした。-78 °Cの低温条件下で、tBuOKとカルベン前駆体の混合溶液に硫黄を作用させることで、カルベンの発生を確認した結果、目的の硫黄付加体が26%収率で得られたため、カルベンの発生を確認することができた。
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