今年度の研究実績としては、未だ世界で報告例のない海洋性アナモックス細菌 “Ca. Scalindua sp.”の酸素同位体分別を求めた。アナモックス反応の酸素同位体分別を求めることは,窒素同位体分別を求めるよりもさらに複雑であり,アナモックス反応の個々の酸素同位体分別の報告はない。複雑な理由は,アナモックス反応では以下の4つの反応:(1) 亜硝酸還元反応,(2) 亜硝酸酸化反応,(3) 亜硝酸酸化時の水の酸素分子の取り込み,(4) 非生物学的な亜硝酸と水の酸素同位体の交換が同時に進行するからである。これら4つの同位体分別を個々に求めることは,基質や培地組成を変化させることが難しく,経時的な基質の消費を観察できない連続培養系では不可能であった。そこで,本研究では,異なる酸素安定同位体比に調整した重水 (H218Oの比率が高い水) を用いた回分培養実験系と,非生物学的な亜硝酸と水の平衡同位体分別を求めるための実験を組み合わせることにより,アナモックス細菌の酸素同位体分別を求めた。アナモックス反応の基質の亜硝酸と,生成物の硝酸は複数のプロセスの酸素同位体分別の影響を受ける。そのため,他の反応(硝化,脱窒)のように基質と生成物の酸素安定同位体比の変化量から単純に各酸素同位体分別を計算することは不可能であった。そこで回分培養実験の実測データに基づき,各反応の時間,濃度,安定同位体比の変化について微分方程式を立て,統計解析ソフトRを用いた数値計算モデルを開発し,各酸素同位体分別を求めることに世界で初めて成功した。本結果は現在、論文投稿準備中である。また,非生物学的な亜硝酸と水の平衡同位体分別に関しては、実験結果を論文にまとめ今年1月にRapid Communications in Mass Spectrometryに論文が受理された。
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