研究課題/領域番号 |
18J20748
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
大塚 美緒子 埼玉大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | Biワイヤー / Biナノワイヤー / 1次元量子Biナノワイヤー / 4端子測定 / ナノ電極 |
研究実績の概要 |
ナノ空孔を有する石英ガラステンプレートの開発について、線引き法による石英ガラスの引き延ばし条件を、温度および圧力を適切に変化させることで、1000nm~50 nm程度の内径を制御して意図的な直径を有する石英ガラステンプレート作成方法を確立した。また、直径100 nmの空孔を有する石英ファイバーにBiを高温圧入して作成した1次元量子Biナノワイヤーの結晶方向をX線回折を用いて特定することに成功した。 Biナノワイヤーの2端子測定法による物性評価用の電極膜蒸着の前処理として、直径500nmおよび200nmのBiナノワイヤーを対象に、自動研磨機を用いてワイヤー端面研磨を行った。硬度の異なる石英とBiを同程度に平滑化するために、研磨時の治具、研磨材の粒径および研磨台の回転速度の最適値決定のため、現在も様々な条件での研磨作業を続けている。また、研磨の精度を実験者の技量によって変化させないために、研磨機の改良を複数回行った。結果、直径500 nmのBiナノワイヤーについては半分以上の確率で研磨が成功し、電極膜作成が可能になった。しかし、直径200 nm以下のBiナノワイヤーに関しては研磨成功率が2割程度であるため、最適研磨条件を今後も検討する必要がある。 直径が100 nm以下の一次量子Biナノワイヤーについては4端子測定法により物性評価を行うために、デュアルFIBを用いてナノ電極を取り付けることを試みたが、ナノサイズのBiワイヤーにナノ加工を施す前に、より加工が容易なマイクロサイズのBiワイヤーを用いてナノ電極の作成を行った。結果、ゼーベック係数、抵抗率、ホール係数の温度依存性(300K- 20K)測定に成功し、ナノ電極が300K- 20Kの温度領域において正確な測定を行うために有効であることが証明できた。 また、文献を参考にした1次元状態密度を考慮したモデル計算プログラムが完成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
直径100nmスケールの1次元量子Biナノワイヤーについては作成、測定、解析等が当初予定していた計画からは少し遅れているが、100 nm以上の直径のBiワイヤーについて不明瞭であった物性について明らかにできた。 測定した直径1900nmのBiワイヤーの抵抗率の温度依存性から、低温における温度係数の上昇が見られた。これは、特定の結晶方向において見られる現象として過去の文献にも示されているが、その原因は特定されていなかった。しかし、本測定では4端子法を実現したことにより、同一サンプルからゼーベック係数、抵抗率、ホール係数の全てが特定できたため、低温における温度係数の上昇が、電子移動度の上昇による現象であることが現段階の解析結果として得られた。本結果については、2019年5月にフランスで行われる国際学会E-MRSにてポスター発表を予定している。 また、測定系の改良を行う中で、インピーダンススペクトロスコピー法(IS法)を用いて熱電変換材料の無次元性能指数zTを熱測定を介さずに直接測定する事に成功した。これは、Bi2Te3バルク試料を対象にして測定を行ったが、同時に熱伝導率および比熱についても特定することに成功し、正確な測定が困難である熱測定を介さず、測定誤差を把握しやすい電気測定のみを用いたという点において、熱電変換材料の高精度な評価が行えたといえる。本測定方法の開発は当初予期していた物とは異なるが、IS法を用いた熱電変換材料の評価は、今後、Biワイヤーに対しても有効であるといえる。 また、カリフォルニア大学リバーサイド校(UCR)にて、クリーンルーム作業を体験し、マイクロ・ナノデバイス作成の基礎を学んだ。自身の大学には無い最新の実験設備を使用することで、クリーンルーム作業を要する実験過程とそうでないものを効率的に切り分ける重要性を再確認した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に作成した石英ファイバーの中から、直径100 nm~20 nm程度の空孔を有するものをSEMの断面観察により探し、Biを高温圧入し、1次元量子Biナノワイヤーを作成する。それと同時に、内径100nm以下の石英ファイバーの作製にあたる制御方法を検討、実験し、石英ガラス試料から効率的にナノサイズのファイバーを作製できる圧力・温度変化の条件を特定する。 また、1年目に確立したナノ加工技術を用いて、ワイヤー直径100nm以下のナノワイヤー熱電変換素子の物性測定を行っていく。トリプルFIBを用いてワイヤー直径50nm程度の1次元量子Biナノワイヤー熱電変換素子の局所電極形成を行う。さらに、直径の異なるBiワイヤーを複数個用意し、ナノ加工済みのサンプルでゼーベック係数、抵抗率、ホール係数、ネルンスト係数を測定し、それぞれの物性値のワイヤー直径依存性を調べる。これと並行し、1次元状態密度を導入したモデルを完成させ、実験値との比較を行っていく。なお、この領域では半金属-半導体転移、バンドの離散化など、量子1次元化特有の現象に加えて、表面状態による閉じ込め準位への影響を考慮する必要がある。そのため、これまでの計算モデルと実験値の差異を手がかりに、茨城大学の小峰先生および電気通信大学の伏屋先生の協力の下、新しいモデルの構築を行い、実験データの解析を進めていく。 さらに、昨年度に10,000~1,000nmの範囲でも内径を制御しながら石英ファイバーを作製することに成功したため、マイクロスケールのBiワイヤーの作製も行っていく。そこでフランスの強磁場装置を有するESPCIと共同研究を試み、ホール係数やネルンスト係数など、磁場測定を必要とするような物性値について明らかにしていく。 また、IS法を用いたzT評価をBiワイヤーに対しても適応し、zTの値について定常法で測定した結果と比較する。
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