抵抗率およびゼーベック係数の4端子測定が終了している直径1.9μmのBiマイクロワイヤーの結晶方向をX線回折により特定した上で熱電物性の輸送特性評価を行った。使用する計算プログラムを見直し、輸送係数から計算した電気伝導度テンソルを用いて解析を試みた。結果、抵抗率は平均自由行程の大きさの影響を受けやすい一方、ゼーベック係数は散乱係数への依存性が大きいことが分かった。解析結果をふまえ、電子とホールの平均自由行程の大きさが等しいことを仮定し、キャリアの真性条件の下、抵抗率の実験値から平均自由行程の大きさを見積もり、ゼーベック係数から散乱因子の値を見積もった。結果、平均自由行程は300-150K程度の温度領域ではワイヤー直径と同等の大きさとなり、その後20Kでワイヤー直径の1/3程度の大きさとなるまで減少した。また、散乱因子の値は温度減少に伴って音響フォノン散乱からイオン化不純物散乱へと遷移するような傾向が見られた。 磁場に関する物性値を評価するため、電気伝導度テンソルに磁場に関する項を含めることで計算プログラムを改良し、特定の結晶方向に従ったホール係数の計算を行った。結果、解析値は実験値の傾向とも一致したが、実験値のホール係数を完全に再現することは困難であった。これは、キャリア密度等に使用している文献値や、実験に使用したBiワイヤーの正確なキャリア密度の特定が難しいことに大きく依存していると考えられる。 以上のような実験値の解析により、Biワイヤーにおいて散乱過程が温度によって変化する可能性があることが詳細なモデルを用いて示すことができた。また、平均自由行程に温度依存性を含ませることによって、抵抗率の低温における上昇傾向の説明を可能にした。以上の結果をふまえ、同様な現象が1次元量子Biナノワイヤーにおいても発現することを加味した上で今後の実験・解析の方向性を示唆することができた。
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