研究課題/領域番号 |
18J20764
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
深井 利央 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 量子ドット / 電子スピン / 光子 / 量子状態転写 / 量子中継 / 量子情報 / 表面プラズモン |
研究実績の概要 |
本研究は半導体量子井戸基板に作製した横型量子ドットを用い、単一光子偏光から単一電子スピンへの量子状態転写の実証を目指すものである。また、このために横型量子ドットにおける光電子生成効率の向上および光生成電子スピンの操作に取り組む。 近年、光子の量子力学的性質を利用した安全な通信方法として量子暗号通信の研究が進められており、この量子暗号通信を長距離化するために、固体量子メモリを利用した量子中継器が提案されている。これは電子スピン等の固体量子メモリと、光子からメモリヘの量子状態転写機構を備えたものである。本研究では固体量子メモリとして横型量子ドット中の電子スピンを利用し、量子状態転写の研究を進めている。 本年度は、光電子生成効率向上のための表面プラズモンアンテナを備えた量子ドット試料の作製と、量子ドット測定系の構築を行った。表面プラズモンアンテナについては、先行研究の結果を踏まえて電磁界シミュレーションを行い、実際の光学系に近いガウシアンビームを入射した場合に約8倍の効率向上が期待されるアンテナを設計し、実際に量子ドットと組み合わせて作製した。また、本研究の実験は希釈冷凍機中の極低温下で行われるため、冷凍機外から入射した光を試料に集光できるようレンズを取り付けた試料ホルダーの作製した。さらに、量子状態転写の実証のための電子スピン操作を行うため、希釈冷凍機に高周波同軸線を導入し、実験のセットアップを進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A. 表面プラズモンアンテナによる光子偏光-電子スピン角運動量転写効率向上 先行実験で作製した表面プラズモンアンテナにおいて所望の透過スペクトルと光増幅が得られなかった原因を検討した。先行実験のアンテナを設計するにあたっては光源を平面波と仮定していたが、今回は実際の実験に近いガウシアンビームと仮定して電磁界シミュレーションを行ったところ、ピーク波長・増幅率ともに変化することが分かった。このことを踏まえて、実際の実験系での入射光を想定したガウシアンビームに対して、約8倍の透過増幅が期待される表面プラズモンアンテナを設計し、量子ドットを動作させるための電極、絶縁体とともに量子井戸基板上に作製した。実験は希釈冷凍機に光を入射して行うため、レンズと位置合わせ用のステージを備えた試料ホルダーを設計・入手した。また、希釈冷凍機の外から光を入射するための光学系を構築した。 B. 表面プラズモンアンテナにおける量子もつれの保持 表面プラズモンアンテナを透過する光子の偏光を検出するため、サファイア基板上への表面プラズモンアンテナを作製に着手した。サファイア基板の絶縁性のために電子線描画がGaAs基板と同様に行われないことがわかったため、他の作製方法を引き続き検討する。 C.3つ目の課題として光生成電子スピンの操作および操作を行うための輸送を挙げていたが、スピン操作方法の再検討の結果、輸送を行わずに電子が光から生成された量子ドットにおいてスピンの操作を試みることにした。このスピン操作を行うための高周波系を希釈冷凍機に導入した。
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今後の研究の推進方策 |
A. 表面プラズモンアンテナによる光子偏光-電子スピン角運動量転写効率向上 昨年度に表面プラズモンアンテナを組み合わせた横型量子ドット試料を作製することができたので、まずはゲート電圧の印加により電子のじ込めポテンシャルを調節し、量子ドットおよび単一電荷計の形成を試みる。量子ドットおよび電荷計が形成出来たのち、微弱な光パルスの照射による単一光電子の生成と検出を行う。照射する光の波長を変化させて光電子の生成効率を測定することにより、表面プラズモンアンテナによる効果を明らかにすることを目指す。 B. 表面プラズモンアンテナにおける量子もつれの保持 表面プラズモンアンテナを通過する光子の偏光を測定するためのサファイア基板を用いた試料については、基板の絶縁性によりこれまでの電子線リソグラフィーでは作製できないことがわかったため、基板を導電加工したうえでの電子線リソグラフィーおよび収束イオンビームによるドライエッチングを用いた作製法を検討する。
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