研究課題/領域番号 |
18J20766
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉田 周平 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 高エントロピー合金 / 中エントロピー合金 / 格子摩擦応力 / Hall-Petch関係 / 強化機構 / 力学特性 / 材料組織学 / 転位論 |
研究実績の概要 |
本年度研究員は,主に高・中エントロピー合金の強化機構に関する研究を行った.高エントロピー合金 (HEA)と中エントロピー合金 (MEA)は,それぞれ5種類以上,4種類以下の合金元素を等モル分率で含有する高濃度合金である.特に単相固溶体HEAは従来の希薄合金と比較して高い強度を示すことが知られており、近年注目を集めている.しかし,HEA,MEAの強度に関しては、希薄系の固溶強化理論などでは十分に説明がつかず、HEA,MEAを含む高濃度系の強化機構は未だ明らかになっていない.本研究では,CoCrFeMnNi HEAとそのSubsystemのFCC単相MEA (CoCrFeNi, CoCrNiなど)の格子摩擦応力 (転位の移動に対する基礎抵抗) を比較することで,各合金の強度に与える合金元素の効果を明らかにし,高濃度合金における強化機構について考察を行った.アーク溶解により作製した様々なMEAに対して巨大ひずみ加工を施し,焼鈍を行うことで,様々な平均粒径の完全再結晶組織を有する試料を作製した.微小引張試験片を用いて,室温で引張試験を行い力学特性を評価した.得られた降伏強度のHall-Petch関係の切片より,合金の格子摩擦応力を決定した.合金の平均原子サイズミスフィットはToda-Caraballoモデルを用いて評価した.平均原子サイズミスフィットが増加するに従い,合金の格子摩擦応力も増加することが分かった.本研究で求めた合金の強度の実験値は,平均場Labusch モデルとよく一致していた.また,HEA,MEAの平均原子サイズミスフィットは希薄合金と同等なのに対し,HEA,MEAの方が希薄合金よりも格子摩擦応力が高いことが分かった.本研究では,転位が移動する際のPeierlsポテンシャルの変化から,高濃度合金ではたらく特異な強化機構として元素間相互作用による強化機構を提唱した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度は当初の計画に沿って研究を遂行し,特に、HEA、MEAの基本的強度とも言える格子摩擦応力が従来の合金に比べて大変高く、それがHEA、MEAの高強度に寄与していることを精緻な実験により示した.またその理由の一つとして、転位のすべり運動に伴い生じる元素の配置換え、すなわち元素間の相互作用による強化メカニズムを提唱した.研究代表者を筆頭著者として,これらの内容を詳しく示した論文を国際学術誌Acta Materialia誌に投稿し、同論文が平成31年4月に掲載された.これらに加えて,本研究課題に関連した共同研究を嶺南大学(韓国),インド工科大学ハイデラバード校(インド)の研究グループと行い,平成30年度中に、研究代表者を著者とする国際学術雑誌論文3編が出版された.また,研究代表者は平成30年11月から平成31年3月までの約3.5ヶ月間、デンマーク工科大学,スイス連邦工科大学ローザンヌ校における研究留学を行ない,本研究課題に関連した複数の共同研究を開始している. 以上から,本研究課題では,積極的に国際共同研究を行うことにより,当初の研究計画以上の大きな進展を見せている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では1年目に高・中エントロピー合金(HEA, MEA)中の格子摩擦応力が従来の希薄合金に比べて非常に大きいことを実験的に明らかにした.そのような転位の大きな移動抵抗が存在する場合,HEA,MEAの結晶格子中の格子欠陥は,純金属とは異なる挙動を示す可能性がある.その場合,HEA,MEAの変形挙動および変形組織に何らかの特徴が現れる可能性がある.そこで2年目は主にHEA,MEAの変形メカニズムの解明に取り組む.また,研究を行うために必要な合金試料を素材メーカーより購入するほか,必要に応じて真空アーク溶解により合金試料を作製する.その後,1年目と同様に加工熱処理により完全再結晶組織を有するHEA,MEA試料を作成し,種々のひずみ量まで試料を変形させる.変形した試料について,所属機関保有の高分解能電子顕微鏡を用いて変形組織の観察を行う.同時に,大型放射光施設にて,変形中のその場回折実験を行うことで,HEA,MEA試料の変形に伴う内部の変形組織発達を定量的に評価する.なお,これらの研究はデンマーク工科大学の研究グループとの共同研究として行うものであり,今年度は議論のために彼らのもとを訪れる予定である.そのための出張費を研究経費に計上した.さらに,実験結果からHEA,MEAの変形メカニズムおよび,大きな移動抵抗が存在する環境下での格子欠陥の振る舞い方について考察する.また,得られた成果を世界に発信し,他の研究者と多くの議論を行うために国内外の複数の会議で発表するほか,最後に成果をまとめ,国際論文誌に発表するための費用を研究経費に計上した.
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