研究実績の概要 |
フッ素基の化合物への導入は、分子の脂溶性の向上や分子が代謝されにくくなるといった多くのメリットをもたらす。そのため多数の農薬や医薬品に含フッ素化合物が用いられており、これら化合物の合成につながる有用な含フッ素反応剤が開発されてきた。ここで申請者はそのような含フッ素反応剤として、含フッ素ホウ素化合物に着目した。この化合物はホウ素基を利用した変換反応により、有用な生理活性を持つ多様な含フッ素化合物を与えると期待される。 本年度の研究においてはまず、有機銅(I)化学種によるβフッ素脱離を鍵反応として、光学活性γ-モノフルオロアリルホウ素化合物の不斉合成法を開発した。具体的には、アリルジフルオリドに対して銅(I)/(R,R)-BenzP*錯体触媒存在下、ジボロンを用いることによるβフッ素脱離を伴う不斉ホウ素化反応を行うことにより、光学活性γ-モノフルオロアリルホウ素化合物が高収率、高Z/E選択的、および高エナンチオ選択的に得られることを見出した(Akiyama, S.; Hoveyda, A. H.; Ito, H. et al. Angew. Chem., Int. Ed. 2019, 58, 11998.)。この研究の特色としては、得られた化合物を用いた種々変換反応により、生物学的等価体として有用な光学活性モノフルオロ化合物が得られた点にある。例えばホウ素基の酸化やアミノ化により、アミド等価体として知られるモノフルオロアルケンが得られた。さらに、求電子剤との立体特異的アリル化反応を行うことにより、従来法では合成が困難な、4級不斉中心上にフッ素基を有するモノフルオロ化合物が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題について当初の計画以上に進展していると考える理由は、コンスタントに計画通りの内容について論文を出版することに加えて、その他の内容についても論文出版を行うことができているからである。私は研究計画に記したように、銅(I)触媒によるβフッ素脱離を伴うアリルトリフルオリドの不斉ホウ素化反応の開発(Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 7196.)をさらに発展させ、種々ジフルオロ化合物に対するβフッ素脱離を伴う不斉ホウ素化反応の開発に成功した(Angew. Chem., Int. Ed. 2019, 58, 11998.)。さらにこの内容については論文出版社側から高く評価を受けることもでき、カバーアートの掲載にもつながっている。加えて本年度は、銅(I)触媒によるβフッ素脱離を用いることによって、含ホウ素ジフルオロジエンの合成にも成功した。本反応により得られる含ホウ素ジフルオロジエン化合物は、ホウ素基を利用した種々変換反応により有用なジフルオロ化合物を与える。これら研究内容についても論文作成を行い、有名化学雑誌に論文出版を行うことができた(J. Org. Chem. 2020, 85, 4172.)。このように私は研究計画に記した内容について計画通りに研究を進めることができ、さらにその他の論文出版も行うことができていることから、計画以上に本研究課題を進めることができていると評価できる。
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