研究課題/領域番号 |
18J20874
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤木 結香 北海道大学, 大学院工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 複雑ネットワーク / 次数相関 / フラクタル |
研究実績の概要 |
近年、次数の強い不均一性を有するネットワークにおける、隣接以上に離れたノードの次数どうしの相関関係(長距離次数相関)の重要性が認識され始めている。しかしながらその一般的定式化は未だ行われておらず、そのため、フラクタル性をはじめとするネットワークの大域的性質との密接な関係が示唆されていながら、長距離次数相関についての系統的な研究は手付かずのままであった。そこで本年度では長距離次数相関の一般的定式化を行った。まず長距離次数相関を記述するために、ノード対間の最短経路長lとノード対の次数を変数とした同時確率および4つの条件付き確率を導入した。さらに、導入された確率関数が互いに独立ではなくBayesの定理等によって結び付けられること、l=1の場合として隣接次数相関の情報を内包していることを明らかにした。次に、局所木構造仮定と平均場近似を用いて、長距離無相関ネットワークを特徴づける5種の確率関数を解析的に計算した。数値計算との比較から、連結成分サイズの揺らぎが大きい臨界点付近を除いては非常に高い精度の近似となることが確かめられた。これまで長距離次数相関の一般的定式化が未達成であった原因は最短経路長分布が熱力学極限で常にゼロとなってしまうことにあった。熱力学極限ではなく有限サイズのネットワークに着目した上記の近似理論によってこの問題が解決されたことは、任意のネットワークの長距離次数相関の評価が可能となったことを意味する。さらに、確率関数間の差異を明瞭に表す長距離次数相関指標を導入し、実世界の複雑ネットワークを網羅的に調査した結果、長距離次数相関には隣接次数相関に付随するものと、隣接次数相関からは誘引され得ない「非付随的な相関」があること、後者がフラクタル性をはじめとするネットワークの大域的構造に関係していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題では平成30年度において長距離次数相関の一般的定式化を行う計画であったが、この取り組みについては十分達成することができたと考えている。具体的には、導入された確率関数は任意の距離にあるノード対間の次数相関を記述すること、隣接次数相関の情報を内包していることを明らかにした。また、確率関数間の一般的関係と隣接次数相関を記述する確率関数との関係を整理した上で、隣接次数相関との対応を鑑み、長距離次数相関の有無を判断するための基準となる「長距離次数相関が無いネットワーク(長距離無相関ネットワーク)」を規定した。さらに、長距離無相関ネットワークに対する5種の種確率関数の解析的計算方法を平均場近似と局所木構造仮定を用いて構築した。これにより、任意の次数分布を有する長距離無相関ネットワークの確率関数が得られるようになり、確率関数どうしの比較から、所与のネットワークが長距離次数相関を有するか否か、有する場合にはどのような長距離次数相関であるかといった情報が得られるようになった。さらに、当所の計画に加えて、隣接次数相関に起因した長距離次数相関が存在することが明らかになった。このような付随的な長距離次数相関は、非付随的な長距離次数相関から区別する必要がある。この目的のため、隣接次数相関のみを有するランダムネットワーク(隣接相関ランダムネットワーク)を導入した。長距離次数相関の付随性/非付随性は、隣接相関ランダムネットワークに表れる長距離次数相関との比較によって判別できる。長距離無相関ネットワークに対して5種の確率関数を計算した際の手法を、隣接相関ランダムネットワークに対して拡張し、隣接相関ランダムネットワークの長距離次数相関を表す5種の確率関数を求めた。付随/非付随性についての成果は当初の計画外のことであり、本課題研究は期待以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本課題研究の目的は、ネットワークの長距離次数相関の一般的定式化を行い、フラクタルネットワークをその解析の対象とすることで、複雑ネットワークに表れるフラクタル性の発現機構と高次数ノード間の長距離反発の関係を解明することであった。これまでの研究で長距離次数相関の一般的定式化は完了し、発現した長距離次数相関が隣接次数相関に対して付随的なものであるか否かを判別する方法を得た。今後の展望としては、非付随的な長距離次数相関が、頑強性やフラクタル性などのネットワークの構造的性質、および、同期現象や拡散現象などのネットワーク上のダイナミクスとどのように関係するのかを明らかにする。また、本課題研究で導入した確率関数は3変数関数であるため、関数形の物理的意味を直感的に解釈することが難しい。実用性の観点からは、これまでに提案した指標以外にも新たな長距離次数相関指標の開発が重要である。平成31年度では、5つの確率関数を基にして長距離次数相関の特徴が端的に理解できるような指標、特に高次数ノード(ハブ)間の長距離反発を表すような指標の開発に努める。社会的ネットワークである共著関係や俳優共演関係ネットワーク、生物学的ネットワークであるタンパク質相互作用ネットワークや代謝ネットワーク、工学的ネットワークであるインターネットや航空路線網、電力網など、現実世界に存在する多数のネットワークに対してこの指標を計算する。計算された指標値を分類・整理することにより、上記3つのネットワーク・カテゴリーのそれぞれに何らかの特徴的傾向があるか否かを判定する。特徴的傾向が見られた場合には、その傾向の発現機構について考察を行う。また、クラスター性やコミュニティ構造のようなネットワークの構造的特徴と長距離次数相関との関係を明らかにする。
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