研究課題/領域番号 |
18J20877
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
KAMPS LANDON THOMAS 北海道大学, 大学院工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ハイブリッドロケット / ノズル浸食 / データ取得方法 / 実験的モデル |
研究実績の概要 |
私の研究成果は大きく3つのカテゴリーに分けられる.まずは,ハイブリッドロケット地上燃焼実験データを獲得するための包括的なデータ取得方法の構築である.燃焼室圧力,推力,およびノズル内部温度の測定値から,推進剤流量,燃焼効率,ノズル壁温,およびスロート直径の各履歴を決定する方法を構築した.本方法は,グラファイトノズル浸食に関する研究を実行するために不可欠であるとともに,ハイブリッドロケットに関連する様々な事象を検討するための方法として,費用対効果の高いものでもある.本方法に関しては2つのジャーナル論文を投稿し,その両方で非常に前向きなレビューを受けた.2つ目の成果として,グラファイトノズルの浸食速度を予測するための経験的モデルの構築が挙げられる.こうしたモデル開発に成功した研究者は他にはいない.上記の包括的なデータ取得方法を適用し,酸化剤として酸素を,燃料にはポリエチレンを用い,50回以上のロケット地上燃焼実験を行った.このようにして,ノズル浸食速度,燃焼ガスの性質およびノズルの壁面温度について何百ものデータ点を獲得し,統計的分析を行うことができた.本モデルを我々の分野では最大とされる学会にて初めて発表し,最優秀賞に選ばれた.3つ目の大きな成果は,ノズル浸食研究を他の機関との共同プロジェクトに統合したことである.私の研究結果はローマ大学との共同研究を通して数値計算方法により検討された.これらの結果は国際会議で発表され,ローマ大学院生の修士論文となった.さらに,私の実験方法は,CAMUI型ロケットに関する北海道大学との共同研究プロジェクトとしてIHI Corporationによって採用された.そして私が開発した経験的モデルは,JAXA / ISASと北海道大学との共同研究プロジェクトで創出したアポジーキックモーター設計にすでに統合されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
酸化剤として酸素を使用する比較的大型実験に関するIHI Corp.のデータは,ノズル浸食予測におけるレイノルズ数スケーリング効果を特定するために極めて重要であった.さらに,JAXA/ISASとの共同研究により,酸化剤として亜酸化窒素を使用した実験の開始が促進され,本研究チームは着火および燃焼安定性に関する技術的問題を克服することができた. 本モデルでは,ノズル表面の温度の影響を受けながら進行する化学反応の,ノズル浸食への寄与を定量的に明らかにする.そして,ノズルを通す燃焼ガスのレイノルズ数によりスケール効果も含まれ,普遍的なモデルであることが考えられる.ノズル浸食モデルからわかるのは,ノズル浸食速度がノズル壁温度に指数関数的に依存することである.したがって,比較的低温(1500 K以下)ではノズル浸食速度が実質的にゼロである.
現時点までで,酸化剤に酸素を用いた実験は50回行われた一方で,亜酸化窒素を用いた実験は20回にとどまる.亜酸化窒素を用いた場合のモデル構築のためにはまだデータが足りない.また,亜酸化窒素を用いた実験はすべて同じレイノルズ数の下で行い,スケール効果が明らかになっていない.そして,亜酸化窒素用モータおよびテストスタンドの能力の限界により,比較的長時間燃焼実験(15秒以上)または流量が比較的高い(~200 g/s)レイノルズ数燃焼実験も実施できなかった.
亜酸化窒素を用いた実験でのデータ取得方法は,ジャーナル「Aerospace」に掲載された.また,本実験によるノズル浸食の初期結果は,第62回宇宙科学技術連合講演会にて発表した.これまでに実施した一連の実験から得られた,より詳細な分析は,今後予定されている2019年推進・エネルギーフォーラムでの発表に採用された.そして,ローマ大学のCFD研究者は,数値解析の観点からこれら結果を調査し続けることに同意した.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果によっては,1年早く本研究の目的を達成できる可能性がある.実験的モデル構築を完了するために,酸化剤に亜酸化窒素を用いた,長時間燃焼実験および高いレイノルズ数実験を合わせて20回程度行う必要がある.初年度では3段階に分けて研究を遂行する.第一段階では,液体酸化剤リザーバをもう1つを作成し,外径が現在の2倍大きいモータケース,燃料,断熱材,熱電対等を購入する必要がある.ノズル内部の温度測定のために,熱電対アダプター,データーレコーダー,延長ケーブルおよび追加のノズル加工が必要になる.第二段階では,酸化剤に亜酸化窒素を用いた燃焼実験を行う.これらの実験では,ノズル材料および大量の亜酸化窒素を購入する必要がある.第三段階では,モデル構築を完了し,数値解析グループと協力し,実験結果と数値解析結果を比較する.本研究の準備として得られた昨年度の研究結果に加え,本年度の第二段階の初期結果を取りまとめ今夏の国際学会にて発表を行い,その後国際ジャーナルに投稿する予定である.また,今秋の国内学会において,第二段階で得られた結果すべてを取りまとめ,発表を行う予定である.さらに,第三段階で得られた結果を取りまとめ来年度の夏の国際学会申請書に使用する予定である.
本研究を通して,アポジーキックモーターの設計におけるノズル浸食の予測に関してJAXA / ISASとの協力を継続する.当設計の結果を第70回国際宇宙会議で発表することを承認されており,これらの結果をジャーナル「Acta Astronautica」に掲載する予定である.さらに,ローマ大学の数値計算研究者らとの共同研究も引き続き行うことが決まっている.私の経験的モデルをそれらの計算アルゴリズムに統合することによって,実験結果の予測を試みる.
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