研究課題/領域番号 |
18J20894
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
秋田 郁美 北海道大学, 大学院工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / 粘土鉱物 / ナノシート / 自己集合構造 |
研究実績の概要 |
当グループでは、アニオン性粘土鉱物ナノシートをホスト、カチオン性有機分子またはナノ粒子をゲストとする静電相互作用による集合構造について、構造制御および構造内で進行する光化学反応解析を行っている。吸着密度、配向などのナノシート上でのゲスト分子の振る舞いは、これまで分光的な手法によって深く理解されてきた。一方で、ナノシート―有機分子集合構造の原子・分子分解能直接観察は未だ報告がない。本研究では、粘土鉱物ナノシートをホストとした静電相互作用による自己集合構造の原子・分子スケールでの構造解析を目指し、収差補正走査型透過電子顕微鏡による高分解直接観察を行う。本目的達成に際しての課題は、電子顕微鏡観察に伴う粘土鉱物およびゲスト分子の電子線照射損傷抑制である。粘土鉱物は主に軽元素から構成される酸化物で、一般に電子線に対する安定性が低い。そのため、バルク粘土鉱物の高分解能電子顕微鏡観察では、断面方向からの原子カラム観察が主流である(Okumura, T. et al., Microscopy 2014, 63, 65-72)。本研究では、単層粘土鉱物ナノシートの環状暗視野走査型透過電子顕微鏡(ADF-STEM)による平面方向高分解観察を初めて達成した。極めて薄い単層ナノシートは電子線照射に対して比較的安定であり、原子分解能観察が可能であった(図、Akita, I. et al., J. Phys. Chem. Lett. 2020, accepted)。また、一般に電子線照射に弱いとされる粘土鉱物が、単層ナノシートの場合には特異的に安定であることを、ナノシート層数に対する制限視野電子回折の強度変化比較から明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単層粘土鉱物ナノシートの電子線損傷過程解析および環状暗視野走査型電子顕微鏡(ADF-STEM)により平面方向高分解観察を行った。極めて薄い単層ナノシートは電子線照射に対して比較的安定であり、原子分解能観察が可能であることを初めて示した(Akita, I, et al., J. Phys. Chem. Lett. 2020, accepted.)。一般にバルク粘土鉱物は電子線に弱く、電子顕微鏡観察中容易に損傷する。本研究では、粘土鉱物ナノシートの層数に対する制限視野電子回折パターンの強度変化速度を比較することで、単層粘土鉱物ナノシートの特異な安定性を明らかにした。また、この結果について国際学会での発表、査読付論文の投稿をした。個々までの結果は、本研究の目的である「粘土鉱物ナノシートをホストとした静電相互作用による自己集合構造の原子・分子スケールでの構造解析」に不可欠なものである。またゲスト分子を導入した系についてもADF-STEM観察および時間分解観察を進めており、進展は順調である。
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今後の研究の推進方策 |
ゲスト分子としてカチオン性ポルフィリンを導入した「有機分子―粘土鉱物ナノシート自己集合構造」ADF-STEM観察を行った。本系ではポルフィリン環中心配位した白金原子をADF-STEM観察におけるマーカーとした。バルク粘土鉱物と粘土鉱物ナノシートの関係と同様に、有機分子も結晶体より単分子の方が安定に電子顕微鏡観察可能であることが最近の研究によって明らかになってきた(Nakamura, E., Acc. Chem. Res. 2017, 50, 1281-1292)。本系においても、有機分子は容易に凝集・分解するという直感に反して、粘土鉱物ナノシート上の白金原子マーカーは安定に観察可能であった。特に白金原子マーカー間の凝集は数回のスキャン後でもほとんどなく、分光測定から決定されたようい分子はナノシート上で無会合吸着状態を維持しているものと考えられる。物理吸着のみによって二次元材料上に担持された白金原子やクラスターは、電子顕微鏡観察中に容易に会合・凝集することが多く報告されている。本系では有機分子―粘土鉱物ナノシート間の静電相互作用が分子の安定化・固定化に貢献していると予想する。今後は、電荷量の異なる有機分子や、原子番号の大きなカウンターイオン(Cs+など)をゲストとした自己集合構造について、同様の観察を行い、ゲスト種と粘土鉱物ナノシート間の相互作用の違いを可視化する。さらにゲスト分子の配位子について、末端を水素より原子番号の大きいハロゲンに置換した分子を設計・合成し、分子内配向(ボルフィリン環―meso位置換基間の二面角)を電子顕微鏡像から直接解析することを目指す。
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