本研究は、交通量調査史料を用いて近代(大正末期~昭和初期)の人流・交通流を定量的に推定し、それをもたらす要因を解明することを目的としている。研究の流れとしては、まず交通量調査史料のデータ化を行う。その後、作成したデータを基に人流データを構築するための定量的な手法を考案・適用し近代の人流・交通流を推定する。これと同時に、近代の職業別電話帳を利用し、職業の分布に基づいた都市構造について分析を行う。これと人流・交通流データとの比較により、最終的には推定された人流や交通流をもたらす要因やその発生・吸収メカニズムについて明らかにする。 最終年度は、東京市電の乗降客数データを基に、空間的相互作用モデルを援用して1931年東京市電の時間帯別停留場間流動量を推定した。これにより、これまで日単位などでしか把握できなかった停留場間流動量を時間帯別に推定でき、時間帯ごとのより詳細な流動量を推定することができた。 前述の研究に加え、これまでに推定した道路交通や市電利用者の発生吸収量がどのような要因によってもたらされているかについて、重回帰モデルによって明らかにした。モデルには職業別電話帳や国勢調査から作成した都市構造に関する変数を使用した。その結果、おおまかにではあるが当時の都市構造と人・交通の発生吸収の関連について明らかにすることができた。 最終年度はこれまでの一連の研究をとりまとめ、博士論文として提出した。これまで近代期の人や交通に関する定量的な研究例は少なく、定性的に評価されてきた部分も多くあった。本研究において当時の人・交通流について定量的に推定できたことは、当時の事象について定量的に評価するための貴重な研究の一つになったと考えている。
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