研究課題
ウイルス特異的IgA抗体が従来の中和活性とは異なるメカニズム (ウイルス出芽阻害) によって、A型インフルエンザウイルスの亜型間交差感染防御免疫に寄与することがこれまでの研究から示唆されてきた。本研究は、HA亜型間で交差反応性を有するが、中和活性を持たない (非中和) IgA抗体に着目し、その抗ウイルス活性を検証している。複数の異なる亜型のHAに結合能を有する非中和抗体の可変領域の遺伝子配列を元に構築した抗体発現プラスミドを用いて、同じ可変領域をもつIgGおよびIgA抗体を作出した。IgA抗体はさらに単量体と多量体に分画した。IgGとIgA抗体との間で、6株の異なるHA亜型 (H1, H2, H5, H6, H11, H12) のA型インフルエンザウイルスに対するウイルス出芽阻害活性を比較した。その結果、多量体IgA抗体を加えた場合に、H2亜型ウイルス以外のウイルス株の出芽量がIgG抗体を加えた場合と比較して有意に減少した。多量体IgA抗体存在下ではウイルス粒子が感染細胞表面に集積している像が電子顕微鏡で確認された。作出した抗体はいずれのウイルス株に対してもNA阻害活性を有さなかったことから、多量体IgA抗体は細胞表面上とウイルス粒子表面上のHAに結合することで、ウイルス粒子の放出を阻害することが示唆された。さらに、ウイルス増殖の指標であるプラークサイズを比較したところ、多量体IgA抗体存在下では、IgG抗体存在下と比較して、H2亜型ウイルス以外のウイルス株のプラークサイズが有意に小さくなった。以上から、非中和多量体IgA抗体はウイルスの放出を阻害することでウイルスの増殖を阻害することが示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究で用いた非中和IgA抗体の亜型間交差感染防御免疫への関与を調べるために、予備実験として、各抗体をマウスの静脈内に投与し体内動態を調べた。IgG抗体は血中に高い濃度で維持され、肺の分泌液中にも検出されたのに対し、単量体IgAおよび多量体IgA抗体は血中での半減期が短く、呼吸器分泌液中にほとんど検出されなかった。IgA抗体をマウス生体内で高い濃度で保てないことが判明したため、多量体IgA抗体による感染防御能をin vivoでは評価することができなかった。一方、当初の予定通り、本研究成果を国際学術雑誌に投稿し受理された。したがって、本研究計画全体の進捗は順調であると判断できる。
A型インフルエンザウイルスのM2タンパク質は、HAおよびNAと同様にウイルス粒子表面に発現し、その抗原性は亜型間で高く保存されている。M2はウイルスの細胞内侵入および出芽に重要な役割を担っているため、様々な亜型のウイルス株に対して抗ウイルス活性を有する抗M2抗体も報告されている。そのため、抗M2モノクローナル抗体からIgGおよびIgA抗体を作出し、異なる亜型のウイルス株に対する出芽阻害活性能を比較することで、M2に対する抗体においてもIgG抗体と比較してIgA抗体の方が抗ウイルス活性が高いか否かを検証する。
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Journal of Virology
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10.1128/JVI.00408-20