A型インフルエンザウイルス (IAV) のマトリックス2タンパク質 (M2) は、ウイルス株間でアミノ酸配列が高く保存されている。M2はウイルスの細胞内侵入および出芽に重要な役割を担っているため、様々な亜型のIAVに対して抗ウイルス活性を有する抗M2抗体も報告されている。これまでの研究から、ウイルス特異的IgA抗体が、従来の中和活性とは異なるメカニズム (ウイルス出芽阻害) によって、IAVの亜型間交差感染防御免疫に寄与することが示唆された。そこで、M2に結合するIgA抗体に着目し、同様の抗ウイルス活性が認められるか否かを検証した。 異なる亜型のM2に結合能を有する非中和抗体の可変領域の遺伝子配列を元に構築した抗体発現プラスミドを用いて、同じ可変領域をもつIgGおよびIgA抗体を作出した。IgA抗体はさらに単量体 (m-IgA)、二量体 (d-IgA)、三・四量体 (t/q-IgA) に分画した。2株の異なる亜型 (H2N2およびH3N2) のIAVに対するプラーク形成能に及ぼす影響をこれらの抗体間で比較したところ、t/q-IgA抗体存在下では、両IAV株のプラークサイズがIgG抗体存在下と比較して有意に縮小した。また、感染細胞の上清中に含まれるウイルスタンパク質量およびウイルス遺伝子量は、t/q-IgA抗体存在下でIgGおよびm-IgA抗体存在下と比較して有意に減少した。しかしながら、各抗体存在下におけるIAV感染細胞を電子顕微鏡で観察したところ、ウイルス粒子が集積している像は見られなかった。一方、IAVの出芽に重要であるとされているHAとM2の共局在はt/q-IgA抗体存在下で減少する傾向がみられた。以上から、M2に結合能を有するt/q-IgA抗体は、HAとM2の共局在を阻害することでウイルス出芽を抑制することが示唆された。
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