地磁気地電流(MT)法は,地下深部の比抵抗構造が可視化可能な物理探査法であり,時間的に変化する地熱地域の地下比抵抗の評価にも応用されている。しかしながら,電磁場(MT)応答関数の地下比抵抗構造に依存した時間的変化を検出することは,次の2点の問題のため困難である。(A)電磁ノイズが観測データに混入すると,MT応答関数の推定誤差が大きくなり,時間的変動分の検出が困難となる。(B) 局所的な電離層電流が流れることで,地上磁場の空間勾配が生じ,MT応答関数は電流源の流れる位置に応じて変化する。本研究はこれらの問題を解決し,MT法は地下比抵抗構造の時間的変化の議論へ応用できることを示した。具体的な成果は次の4点にまとめられる。 (1)観測点に対する電流源の位置を変化させながら,磁場の空間勾配に依存して変化するMT応答関数を計算した。(2)観測データに混入した電磁ノイズを除去する手法を開発した。時系列データの過半数がノイズに汚染された場合,従来法での解析は困難だが,本手法を用いることで解析に成功した。(3)地上磁場の空間勾配を,地磁気データのスペクトログラムから評価・抽出可能な手法を新たに開発した。(4)気象庁柿岡地磁気観測所で測定された電磁場データから,(2)の手法を用いて時間的に変化するMT応答関数を導出した。(3)の手法を用いて磁場変動の空間勾配を評価し,電離層電流の位置に応じて変化するMT応答関数を除去した。その結果,MT応答関数の時間的変動は,降雨量に依存することを示した。観測点の地質構造・周波数間での同期性などを考慮すると,MT応答関数の時間的変化は,降雨による表層の比抵抗異常の変化を反映したと解釈できる。そのため,上述の問題(A)・(B)を解決し,地下比抵抗構造の変化に起因するMT応答関数の時間的変化を検出することに成功した。
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