研究課題/領域番号 |
18J20943
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
須藤 貴弘 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 宇宙線 / 銀河天文学 / ニュートリノ |
研究実績の概要 |
本研究課題では、高エネルギーニュートリノの起源解明を目的とした研究を行なってきた。前年度までに、現実的な銀河形成モデルを用いることによって、過去の研究では実現し得なかった高い精度で星形成銀河からのニュートリノ量を見積もることに成功した。これにより、星形成銀河では観測されているニュートリノの四分の一も説明することはできないという結論が得られた。別のニュートリノ源が存在するということを確実に示したことになり、ニュートリノの起源の理解に大きく貢献したと考えている。ただし、この研究では銀河の円盤で生成されたニュートリノのみを考慮していた。銀河から脱出し、銀河間空間を漂う宇宙線が反応することによっても、ニュートリノは生成されうる。そこで、当該年度の研究では、このような成分も含めた計算を進めてきた。 高エネルギーニュートリノは宇宙線陽子の反応で生成されるため、宇宙線陽子の起源解明は宇宙ニュートリノの理解に本質的に重要である。そこで、当初の計画はニュートリノのみに焦点を当てていたが、さらに拡張し、銀河における宇宙線陽子生成に関する研究も実施した。特に 1000 兆電子ボルトまでの宇宙線陽子は銀河系内で生成されていると考えられているが、今までその良い候補は見つかっていなかった。そのような状況の中、最近の観測で銀河系内のブラックホール連星から噴出するジェットから高エネルギーガンマ線放射が検出された。この報告をを受けて、この観測を説明する理論的計算をいち早く行った。その結果、この天体のジェットで起きている粒子加速によって、長年の謎である1000 兆電子ボルト付近の宇宙線を説明できることを示した。この結果はすでに論文として査読を経て学術誌に出版されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、星形成銀河からのニュートリノの寄与を現実的な銀河形成モデルを用い、銀河内の円盤からの放射と、円盤を脱出し銀河間空間を伝搬する粒子からの放射まで含めて見積もる予定であった。そのうち、前者(円盤)については既に論文を出版しており、星形成銀河からの寄与に新たな制限をつけた。後者(銀河間空間)についても計算を進めており、本年度中には確実に論文を完成できる見込みである。このように、計画した研究課題は順調に進展しているといえる。 さらに、近年の観測の進展を受け、当初の予定にはなかった研究も行った。特に、銀河系内のブラックホール連星から噴出するジェットから高エネルギーガンマ線放射が検出されたという報告があり、その理論的解釈をいち早く行った。その結果、この天体のジェットで粒子が理論的に許される極限に近い高効率で加速されていることを初めて指摘し、これに基づいてこの天体が陽子を PeV(1000 兆電子ボルト)まで加速できる可能性を指摘した。本研究は当初の予定にはなかったものだが、高エネルギーニュートリノは陽子の反応によって生成されるため、陽子の加速に関する研究成果は、ニュートリノの起源理解にも重要である。 また、近年のガンマ線観測により、パルサーの周辺に拡がる高エネルギーガンマ線の放射が見つかった。これは従来の理論では説明がつかず、新種天体「TeV ハロー」と呼ばれて注目されている。この発見も当初の予定にはなかったが、ガンマ線やニュートリノとの関連でも重要であることから、本天体に関する理論研究の論文も出版した。 このように、研究課題を計画通りに遂行しつつ、関連した研究論文の出版も行ってきた。このため、課題の進捗状況は良いと評価できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に従い、銀河間空間(特に銀河団)におけるニュートリノ放射の研究を終え、計画を遂行する。既に具体的な方針を立てて計算を進めている。本年度の早い段階で論文を学術誌に投稿し、年度中には査読対応も終えることができると考えている。 さらに、高エネルギーニュートリノの起源、あるいはより幅広く高エネルギー粒子の起源解明に寄与する研究を推進していく。特に、近年は観測の進展が著しく、様々な事実が発見されてきている。このような展開はもとの研究計画では考慮していなかった。しかし、高エネルギー粒子の起源を知るにあたっては、このような新たな観測を理論的に解釈することは必須である。 実際に昨年度は、当初の計画を進めつつ、高エネルギーガンマ線の近年の観測をもとにした研究も複数行い、新たな成果を出すことができた。特に、ブラックホールジェットの観測を受けての理論論文では、このジェットにおいて高エネルギー宇宙線陽子が生成できる可能性を指摘したが、これは本来の研究計画である高エネルギーニュートリノの起源解明にとっても重要である。本年度も当初の研究計画を推進しつつ、観測の進展に合わせ、それと密接に関連した幅広い理論的研究も行っていきたいと考えている。
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